とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

消化器科

クロストリジウム・ディフィシルについてこれだけ 疫学から診断・治療まで

はじめに 病棟を管理する診療科であれば遭遇したことはなくても、一度は鑑別にあげたことがあるであろうCD腸炎。CDI感染(クロストリジウム・ディフィシル)はいつ疑うか。 教科書的には抗菌薬使用後+入院患者に発生する下痢では疑わなければならないとされ…

HCV検査の解釈について 肝炎ウイルス検査のよく分からないを解決

はじめに C型肝炎の診断においてHCV抗体とHCV-RNAが用いられる。C型肝炎の感染経路としては医療現場においては針刺し事故や注射器の使い回しなど。感染後急性肝炎となっても30%は自然に治癒し、70%は慢性化する。慢性化すると肝硬変、肝臓がんへと進展する…

急性膵炎について 診断・重症度分類から治療までこれで解決

◯いつ急性膵炎を疑うか ・突然の腹痛で発症(上腹部痛40%、全体の痛み30%、臍周囲20%ほど) (随伴症状は嘔吐や高熱、背部痛などもある。ちなみに、急性膵炎の10%は無痛と言われており採血や画像で引っかかったら痛みが何もなくても否定してはなら…

肝機能障害はこれだけ よく遭遇する肝逸脱酵素上昇についての考え方

はじめに 肝機能異常・肝逸脱酵素上昇があればそのシチュエーションも考慮し、AST・ALTなどの肝逸脱酵素が上昇しているのか、はたまたALPやΓGTPなどの胆道系酵素が上昇しているのか、それともいずれも両方上昇しているのかをまずは確認する必要がある。 あく…

胃粘膜保護薬についてはこれだけ PPI、P-CAB、H2ブロッカーなどのまとめ

はじめに ・胃粘膜保護薬の開発は消化性潰瘍の治療とともに進んできた。消化性潰瘍治療の歴史の中で最初に大きなブレイクスルーがあったのはH2受容体拮抗薬(histamine H2-receptor antagonist:H2RA)の開発であった。これにより消化性潰瘍の外科手術の頻度…

整腸薬と止痢薬の使い分け

整腸薬 整腸薬は生菌製剤と耐性乳酸菌製剤の2種類がある。これら製剤の添付文書における効能・効果は生菌製剤は「腸内細菌叢の異常による諸症状の改善」、耐性乳酸菌製剤は「抗生物質、化学療法剤投与時の腸内細菌叢の異常による諸症状の改善」とされている…

PBCとPSCの違い 今さら聞けない常識

はじめに PBCとPSCは名前が紛らわしいので今回整理して覚えることとする。 PBC=primary biliary cirrhosis=原発性胆汁性肝硬変=原発性胆汁性胆管炎 PSC=primary sclerosing cholangitis=原発性硬化性胆管炎 PBCは慢性の肝内胆汁うっ滞をきたす疾患。肝内胆…

血便の鑑別に関して まずはこれだけ

はじめに 血便は救急外来を受診する代表的な症状である。今回はその鑑別をまとめたいと思う。 大腸癌 中高年に多く、無痛性の下血がみられたらまず疑う。下痢や便秘などの便通異常を伴うことも多い。左側結腸ではイレウス症状がでやすい。 虚血性腸炎 高血圧…

胃全摘後には胆石症を起こしやすいのはなぜか?

はじめに 胃全摘後には胆石症を起こしやすいとされている。なので胃全摘術と共に予防的胆嚢摘出を行う施設もある。今回は胃全摘後に胆石症を起こしやすくなる理由と予防的胆嚢摘出についてどのようなコンセンサスがあるのかを解説していく。 胃全摘後に胆嚢…

胃癌 手術再建方法 よく忘れる項目を解説

はじめに 消化器癌の手術ではその癌を摘出することがゴールではなく、摘出し消化管を再建することまで含まれる。今回は消化器癌の代表疾患である胃癌に関してその再建方法をまとめる。 Billroth I法 Billroth I法は、最初の胃切除術で行われた残胃と十二指腸…

しぶり腹について 知らないと恥ずかしい医学用語

はじめに しぶり腹(テネスムス)とは頻回に腹痛と便意を催すものの、排便しても少量しか出ない状態。 原因となる疾患としては潰瘍性大腸炎、アメーバ赤痢、偽膜性大腸炎、大腸ガンなど。 いずれにしても下部大腸、特に直腸に病変が及んでいる疾患で生じやす…

メッケル憩室についておさらい

はじめに メッケル憩室とは回盲部より数十センチ口側にできる先天性の真性憩室である。(無症状患者が多いが全人口の2〜4%と言われている) 約20%の頻度で胃粘膜の迷入を認めることがある。その場合は憩室の内腔は異所性の胃粘膜で覆われるということ…

急性膵炎でcolon cut-off sign、sentinel loop signが見られる機序

はじめに 急性膵炎は救急で来院される代表的な急性腹症の一つであると言える。今回は急性膵炎でcolon cut off sign /sentinel loop signが見られる機序について説明する。 急性膵炎でcolon cut-off sign、sentinel loop signが見られる機序 急性膵炎では膵臓…

急性膵炎で高Ca血症となる理由

はじめに 急性膵炎では血中カルシウムが減少することが知られており、急性膵炎の重症度分類にもカルシウム値は反映されている。今回は急性膵炎でカルシウムが低下する理由についてまとめる。 急性膵炎で低カルシウム血症になる理由 急性膵炎とは膵臓内で活性…

便秘で虚血性腸炎になる理由

はじめに 虚血性腸炎は高齢者の血便を主訴に来院される場合が多い。誘因としては年齢や生活習慣などから動脈硬化が進行し腸管への血流障害から生じる。また便秘を有する人に多くその理由を検討する。 便秘が虚血性大腸炎の誘因となる理由 虚血性大腸炎とは動…

ピロリ菌除菌は逆流性食道炎の増悪因子になる!?

ピロリ菌除菌が逆流性食道炎の増悪因子となる理由 胃食道逆流症(GERD)とは酸性の胃内容物が食道方向に逆流することにより食道を傷つけてしまう疾患。 ただし食道の下には下部食道括約筋があるので胃の内容物は通常逆流しないようになっている。 逆流性食道…

食道がんに対するルゴール染色の意味

食道ガンに対するルゴール染色で白くなる理由 ルゴール溶液とはヨウ素、ヨウ化カリウム、グリセリンなどからなる溶液である。 この液体は食道ガンの検査で用いられる。 ヨウ素でんぷん反応というのはでんぷんとルゴール(ヨウ素)が反応することによって呈色…

逆流性食道炎に抗コリン薬を使ってはいけない理由

逆流性食道炎に抗コリン薬禁忌の理由 胃食道逆流症とは酸性である胃の内容物が食道に逆流することで食道を傷つけてしまう疾患である。 治療法としては胃酸の分泌を抑える薬剤であるプロトンポンプインヒビターやヒスタミンH2受容体拮抗薬などが用いられる。 …

肝硬変では低Na血症に注意する なぜか?

肝硬変ではアルブミンの産生能が低下することにより膠質浸透圧が低下し、水が間質に移動する。それにより血管内が脱水状態となり、代償的に水を血管内に増やそうとする機構が働く。 一つはアルドステロンによる遠位尿細管からのナトリウムの再吸収であり、も…

肝性脳症について ①診断編

はじめに 肝性脳症とは高度の肝臓障害により意識障害、羽ばたき振戦などを始めとした様々な精神症状をきたす症候群である。劇症肝炎や肝硬変が主な原因。 肝性脳症の分類 【肝性脳症の病態】 肝機能が正常であれば、腸管から吸収された毒素を解毒することが…

劇症肝炎でのPT

はじめに 劇症肝炎とは肝臓が急激に機能低下を生じて、発症から8週間以内に肝性昏睡度二度以上の肝性脳症をきたし、更にプロトロンビン時間40%以下を示すものと定義される。 原因はB型肝炎ウィルスによるものが多い。 症状としては発熱、黄疸、浮腫など…

高位前方切除術と低位前方切除術の違い

直腸の解剖 直腸は部位によってRs,Ra,Rbに分けられている。 Rs:岬角〜第2仙椎下縁までの範囲。直腸S状部のこと。腸間膜がある領域であるので厳密にはS状結腸に含まれるはずであるが、日本では直腸の一部として扱われている。 Ra:第二仙椎下縁〜腹膜反転部…

肝硬変患者のvibrio vulnificus

【vibrio vulnificusとは】 vibrio vulnificus(ビブリオ・バルニフィカス)とはビブリオの一種で壊死性筋膜炎を起こすことから日本では人食いバクテリアとも呼ばれる菌の一種である。 生息域は腸炎ビブリオと似ており、温かい汽水域の海水中に多く分布して…

便秘への対応 たかが便秘、されど便秘

はじめに 便秘とは日常よく遭遇する症候であるが、その原因は非常に多岐にわたり下剤を処方するだけでは十分でない。 入院後の環境変化や明らかな便秘の原因を指摘できる場合以外は分類し、原因を検索することが大切 【便秘の分類】 器質的便秘:悪性腫瘍(…

急性虫垂炎の自然経過 知らないと医師として恥ずかしい!?

虫垂炎では症状の発症する順番はある程度決まっている 半日〜2日ぐらいの経過で次のように症状が出現する。 1,心窩部痛 2,嘔気、嘔吐、食欲不振 3,右下腹部の圧痛 4,発熱 5,白血球増加 ・認められない症状があることはあっても順番が逆になること…

アニサキス症に対する対応 あわてずスマートに

はじめに アニサキスは寄生虫の一種であり、イカ、サバの生食を経口摂取することが発症すると言われているが、地域によって原因となる魚種に違いが有り、西日本や関東周辺ではサバ、イワシ、アジなど、北海道ではタラ、ホッケ、サケなどがアニサキスの原因と…

感染性腸炎に対する抗菌薬治療 知らないでは済まされない一般診療

はじめに 感染性下痢症に抗菌薬は必要なのか。 感染性腸炎の原因は大きく分けてウィルス性と細菌性とがある。 抗菌薬は細菌を殺す薬なので当然であるがウィルス性腸炎には効かない。 逆に細菌性の腸炎であれば全例抗菌薬を使っていいのかというとそういうわ…

胆石に対する対応 まずはこれだけ 帰宅させるかどうか 薬剤治療の適応

はじめに 胆石は症状がなくても人間ドッグなどで偶発的に発見されることも多い。 症状がなければ基本的に無治療で経過観察としても良い。が、年間3%前後の確率で症状を発症する可能性があり、また胆嚢がん患者では高率で胆石を認めるので無症候性であって…

PIDと虫垂炎の鑑別項目

PIDとは若い女性に好発する上部生殖管の感染症。子宮内膜や卵管、付属器は本来無菌状態であるが、下部生殖器の膣、外陰部、子宮頸部に感染した微生物が上行性に上部生殖器に波及するとPIDとなる。(PIDとはpelvic inflammatory diseaseの略= 骨盤内炎症性疾…

便潜血という検査の意義 知らないでは済まされない

◯健康診断で便潜血陽性を指摘された場合の対応 便潜血は大腸がんのスクリーニングとして用いられるが、その感度は必ずしも高くない。便潜血には1回法と2回法があり、1回法の検査では進行大腸がんの感度が60%ほど、2回法では90%ほどと言われている(…