とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

感染性腸炎に対する抗菌薬治療 知らないでは済まされない一般診療

はじめに

感染性下痢症に抗菌薬は必要なのか。

感染性腸炎の原因は大きく分けてウィルス性と細菌性とがある。

抗菌薬は細菌を殺す薬なので当然であるがウィルス性腸炎には効かない。

逆に細菌性の腸炎であれば全例抗菌薬を使っていいのかというとそういうわけでもない。抗菌薬を使うと消化管内の常在菌も皆殺しにしてしまうので腸内細菌叢がリセットされてしまう。よって細菌性腸炎でも重篤化のリスクがある場合や以下に示す特殊な例でのみ抗生剤の使用を考える。

急性腸炎の下痢を3つに分類

  • 1,分泌性下痢

小腸において水や電解質の分泌が亢進し吸収が追いついていない状態。例えばコレラでは腸管粘膜のGタンパク質を介して細胞内シグナルcAMPを常にONにして水とCl-イオンが絶えず外に出続けてしまう。よって食事をやめても下痢は続くという特徴がある。

  • 2、浸透圧性下痢:

腸管内容物によって浸透圧が上がるとそれを薄めようと腸管粘膜側から腸管内腔に水が移動し、結果として下痢になる。よって食事をやめると下痢も治まる。

  • 3、炎症性下痢:

大腸病変の時の下痢。カンピロバクターなどの細菌感染で大腸粘膜が傷害を受けることにより生じる。少量で頻回、時に血便を呈する。

大腸型下痢と小腸型下痢の違い

◯大腸型の腸炎は炎症性の腸炎とも呼ばれ、腸管粘膜の障害によって起こる。→血が出ることが多い。

◯小腸型の腸炎は非炎症性であり、毒素による腸管分泌が促進することによって起こる→血は出ずに水溶性の下痢であることが多い。

  • 大腸型腸炎の特徴(粘膜の障害)

・発熱、強い腹痛

・1日8〜10回の頻回の出血性の下痢(大腸の粘膜が障害されるから)

・渋り腹(激しい便意をきたすが便はほとんど出ない)

主な原因:赤痢菌、サイトメガロウィルス、カンピロバクターサルモネラ、O157型大腸菌、エルシニア、ビブリオ

  • 小腸型腸炎の特徴(毒素による腸管分泌の促進)

・多量の水様便(腸管からの分泌が増えるから当然水っぽいのが多量にでる)

・嘔気(小腸は口側に近いので気持ち悪さを誘発し嘔吐につながる。一方大腸型では口からは遠いので嘔気は少ない。)

・発熱や血便は軽度(分泌が増えるだけで組織破壊は伴わないから)

・周囲で同様の症状あり(ウィルス性なので細菌性よりも感染力が高い)

主な原因:ウィルス(ロタウィルス、ノロウィルス)、細菌(ビブリオ、コレラ黄色ブドウ球菌大腸菌(旅行者下痢症)、原虫など

【抗菌薬治療の適応】

・細菌性の腸炎が疑われ重篤感のある場合、高齢者、新生児、DMやHIVなどの免疫力低下患者

カンピロバクター腸炎カンピロバクターでは抗菌薬投与で症状が1,3日短縮するとのデータあり)

サルモネラ感染症で合併症のある場合(50歳以上、3歳以下、免疫不全(AIDS、悪性腫瘍、ステロイド治療)、腎不全、動脈瘤、心臓弁膜症、人工関節など)←逆にサルモネラ合併症を想定しない場合は抗菌薬使わない。

赤痢

旅行者下痢症

ちなみに細菌性腸炎は多くの場合大腸型の腸炎を呈する。大腸型というのは大腸で主に細菌が増殖し、腸管粘膜を傷害してしまうために種々の症状が出現する。粘膜破壊によって血便、腹痛、38度以上の発熱が典型的な例である。一方でウィルス型の腸炎では小腸型を呈することが多く、症状としては水様性下痢、嘔吐などが一般的。