とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

便秘への対応 たかが便秘、されど便秘

はじめに

便秘とは日常よく遭遇する症候であるが、その原因は非常に多岐にわたり下剤を処方するだけでは十分でない。

入院後の環境変化や明らかな便秘の原因を指摘できる場合以外は分類し、原因を検索することが大切

【便秘の分類】

  • 器質的便秘:悪性腫瘍(大腸がん)、術後狭窄、炎症性狭窄、ヘルニアなど
  • 症候性便秘;妊娠、糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、アミロイドーシスなど腸管運動を低下させる基礎疾患
  • 機能性便秘:生活習慣や食物の変化、精神的な要因など

・弛緩性便秘:便意の我慢が習慣となり結腸の蠕動運動低下、直腸の排便反射が低下している

・痙攣性便秘:腸管が攣縮することにより排便時に腹痛や不快感を呈する。便はコロコロとした兎糞状の便となることが多い。 

器質的便秘や薬剤性便秘、症候性便秘が除外できた場合は機能性の便秘と考える。

既往歴や内服歴などはよく問診する必要があるが、危ない便秘かどうか判断するには以下の便秘のレッドフラッグサインを用いるのも簡便かつ有用である。(レジデントノート「薬の選び方・使い方」参照)

・体重減少

・血便

・貧血

・悪性腫瘍、炎症性腸疾患の家族歴

・ひどい腹痛、発熱、嘔吐

・50歳以上の突然の排便習慣の変化

詳しくは機能性便秘の診断基準参照。

機能性便秘の診断基準 ローマⅢというものがある。ここでは省略します。

機能性便秘が疑われたらまずは食物繊維の摂取(成人男性20g/day以上、成人女性18g/day以上)、十分な水分摂取などの生活指導を行い、それでも改善がない場合は便秘薬の適応となる(実際には生活指導のみで改善することは少ないが)。

【便秘薬(下剤)の使い分け】

■便秘薬の種類

◯塩類下剤(マグミット®、酸化マグネシウム

◯膨張性下剤(バルコーゼ®、カルボキシメチルセルロースナトリウム)

◯大腸刺激性下剤(ラキソベロン®、ピコスルファートナトリウム)

◯座薬(新レシカルボン座薬®)

1、便が硬い

便をもっと水っぽくし動きやすくする。マグミット®(酸化マグネシウム

酸化マグネシウムは腸内での水の再吸収を抑制し、腸の内容物が膨張して排便を促進する。機能性便秘においては最初に用いられることの多い薬でもある。

2,便が少ない

便の量を増やすようにする。便量を増やす薬として膨張性下剤のバルコーゼ®(カルメロースナトリウム)。バルコーゼはセルロースの誘導体(つまり食物繊維)であり水を吸収して大きなゼラチン状になる(→便量アップ)。また、高齢者などではそもそもの食事量が少ないことも有るのでヨーグルトなどの摂取を勧める。

3、腸管運動が低下している

寝たきり患者など体を動かさないと直腸反射も低下するので必然的に便秘になってしまう。対応策としては体を動かすなどの生活指導、腸管運動を活性化させる薬剤。

◯その1、大腸刺激性下剤

(例、ラキソベロン®(ピコスルファートNa)、プルゼニド®(センノシド)

◯その2、腸運動調節薬

(例、ガスモチン®(モサプリドクエン)

機序:胃や腸のセロトニン受容体を刺激し、アセチルコリンを遊離させる。アセチルコリンの作用で腸管運動が亢進する)

◯その3、直腸反射誘発薬

(例、新レシカルボン坐薬®、グリセリン浣腸)

機序:新レシカルボン坐薬には炭酸水素ナトリウムが入っており、腸管内で分解されてCO2が発生する。CO2が貯留するとそれが直腸粘膜を刺激し、排便が促される。

 

4、直腸で硬い便が詰まっている場合

直腸付近で便が固くなり便の出口を塞いでいることがある。その場合はいくら下剤を投与しても通過しないために腹痛などを呈する場合も。→摘便を考慮

〜まとめ~

・第一選択は便量を増やすための塩類下剤(マグミット®)や膨張性下剤(バルコーゼ®)。

便意の我慢が習慣となってしまった弛緩性の便秘の場合、腸管の運動機能が低下しているので大腸刺激性の下剤を用いる(ラキソベロン®)。一方で痙攣性便秘の場合には大腸刺激性の下剤では腹痛を増悪させかねないので避け、塩類下剤や膨張性下剤を用いる。

・直腸の排便反射が低下していことによる便秘の場合は直腸粘膜を刺激するために座薬を用いる(新レシカルボン座薬®)