胃瘻の適応と禁忌 まずは基本を知ろう
1.適応と禁忌
- PEGの適応と禁忌を表1、2に示す。
- 一般的には、正常の消化管機能を有し、4週間以上の生命予後が見込まれる成人および小児がその適応となる。
- 本邦には疾患別の適応と禁忌は存在していない。
- PEGの適応に関しては医学的な側面と倫理的側面から考察する必要がある。
表1 PEGの適応
1.嚥下・摂食障害 ・脳血管障害、認知症などのため、自発的に摂食できない ・神経・筋疾患などのため、摂食不能または困難 ・頭部、顔面外傷のため摂食困難 ・喉咽頭、食道、胃噴門部狭窄 ・食道穿孔 2.繰り返す誤嚥性肺炎 ・摂食できるが誤嚥を繰り返す ・経鼻胃管留置に伴う誤嚥 3.炎症性腸疾患 ・長期経腸栄養を必要とする炎症性腸疾患、とくにクローン病患者 4.減圧治療 ・幽門狭窄 ・上部小腸閉塞 5.その他の特殊治療 |
表2 PEGの禁忌・相対的禁忌
絶対的禁忌 ・通常の内視鏡検査の絶対禁忌 ・内視鏡が通過不可能な咽頭・食道狭窄 ・胃前壁を腹壁に近接できない ・補正できない出血傾向 ・消化管閉塞(減圧ドレナージ目的以外の場合) 相対的禁忌 ・大量の腹水貯留 ・極度の肥満 ・著明な肝腫大 ・胃の腫瘍性病変や急性粘膜病変 ・横隔膜ヘルニア ・出血傾向 ・妊娠 ・門脈圧亢進 ・腹膜透析 ・癌性腹膜炎 ・全身状態不良 ・生命予後不良 ・胃手術既往 ・説明と同意が得られない |
- PEGが適応となる医学的な条件は、PEGが安全に施行できて経腸栄養の効果が期待できることである。
- したがって、生命予後がきわめて短い(通常1ヵ月以内)場合や全身状態が極端に不良の場合にはPEGの適応から外れる。
- また、PEGはそもそも経腸栄養の投与ルートを造る手術であることから、栄養法として経腸栄養が適応となり、他の胃瘻造設法よりも優れていることが必要条件となる。
① 生命予後は?
現在のところ、PEGの適応に関する生命予後の長短の基準は厳格に定められていないが、常識的にいえば1ヵ月以上の生命予後が期待できる成人および小児が適応となる。
② PEGに耐えられる全身状態か?
PEGは低侵襲の手術であるが、患者の全身状態が不良な場合には、相対的に高侵襲手術になる.全身状態の明確な評価基準はないが、通常の外科手術に準じれば、極度の低栄養(血清アルブミン値2.5以下)や貧血(血色素8.0以下)、重篤な感染症を併発している場合には、それらの治療を優先させるべきである。
③ 栄養法として経腸栄養が適応か?
ASPEN(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition)の提唱する経静脈、経腸栄養のガイドライン1)によると、消化管が機能しており消化吸収が可能ならば経腸栄養が適応となる。なお、静脈栄養は、経腸栄養が施行できない場合に限られる。
④ 経腸栄養の期間は?
再度、ASPENの提唱する経静脈、経腸栄養のガイドライン1)を参考にすると、経腸栄養を行う期間が短期間(通常、4週間以内)の場合には非侵襲的で留置が容易な経鼻胃管法が選択される。使用期間が4週間以上に及ぶ場合には、瘻管法(胃瘻もしくは腸瘻)が適応となる。
⑤ 瘻管造設法の選択は?
瘻管造設法としては、
- PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術:percutaneous endoscopic gastrostomy)
- X線透視下経皮的胃瘻造設術(percutaneous radiologic-assisted gastrostomy:RAG)
- 超音波下胃瘻造設術(percutaneous ultrasound-assisted gastrostomy : UAG)
- 腹腔鏡的胃瘻造設術(laparoscopic gastrostomy:LG)
- 開腹胃瘻造設術(surgical gastrostomy : SG)
がある。
現段階では、PEGが瘻管造設法の第一選択とされているが、症例によっては上記の手技を選択することもある。
① 患者が意思表示できるか?
患者が健全な自己判断能力があるかどうか、ない場合には、発症前に本人の意思表示があったかどうかによる。
実際、PEGの適応を決めるにあたって、治療を選択する能力がない状況の患者が多いが、突然の外傷や脳血管障害などの予測できないないアクシデントの場合には、患者の意思を確認することは極めて難しくなる。通常、このような場合には家族もしくは肉親の判断に委ねられことが多い。
しかし、これは治療を自己決定する原則から外れていることを常に念頭に入れるべきである。したがって、医療者側も患者側もより慎重な対応が要求され、倫理面に十分配慮しながら、医学的な効果を客観的に評価することが重要となる。
② 患者がPEGを希望するか?
ここで重要なことは医学的に有効か否かに関わらず、患者がPEGを望まない場合には、PEGは適応にならないということである。仮にどんなに医学的な安全性と有用性が期待できてもPEGの適応とすべきではない。なぜならばいかなる場合であっても患者の自己決定権が尊重されるべきだからである。
ただし、病気を患うことによって精神的な鬱状態に陥り、正当な判断能力が失われていることは常に留意すべきである。とりわけ医学的な安全性と有効性が期待できる場合には適切な情報提供が要求される。
③ PEGが医学的に有効か?
前述の1.1の条件を満たすことが重要である。
しかしながら、倫理的にはいくつもの問題を残している。Rebeneckら2)は、臨床的な側面と倫理面から、PEGの適応に関するガイドラインを作成したが、この問題の最も難しいのは、やはり治療を自分で決定できない患者へのPEGをどう考えるかである。
2.PEG適応の問題点
- PEGは、開腹手術による胃瘻造設術に比べて侵襲が少なく、経鼻胃管による栄養法や静脈栄養に比べて患者の苦痛が少ないなどの利点から、長期にわたる嚥下障害患者、特に本邦では高齢者患者の栄養補給法として広く行われている。
- しかし、嚥下障害のある高齢者では病状が回復し再び経口摂取可能になる患者は少なく、加齢と病状の進行から寝たきり状態になるなどの問題点は少なくない。
① 事前説明の重要性
一般の医療と同様に患者や家族に対するインフォームド・コンセントは重要であることは言うまでもない。
しかし、PEGの事前説明としては、PEG後の患者の病状や長期化したときの看護・介護、さらには家族の負担なども含めた社会的側面の情報提供も行う必要がある。
② 患者の意思の尊重
倫理的な適応でも述べたように、患者の意思、希望を尊重すべきことは当然であるが、PEG患者の場合、正常な判断ができないことが少なくない。
このような場合、基本的に患者の事前の指示書、代理人への指示または推定される患者の意思を尊重すべきである。患者の意思が不明な場合は家族と相談することになるが、重要なことは何が患者にとって最善かを判断することである。そして、このような判断にあたっては、関係する医療チームや施設での倫理委員会的組織の意見を求めるなどといった配慮も求められる。
③ 栄養補給の中止
PEGにより嚥下障害患者の長期管理が容易になり、患者に多くの恩恵を与える一方、長期間にわたり病状が改善せず、回復の見込みがなく寝たきりで介護を必要とされる状況で、PEGによる栄養補給で生き続けることの是非については極めてデリケートな問題である。栄養補給が医学的な行為なのか、人間にとって基本的な生命維持行為なのかの根本的な見解は少なくとも本邦にはない。この問題に関しては、医学界や法曹界のみならず、国民的な問題として審議していく必要があると考えられる。
3.おわりに
PEGは画期的な臨床的効果から世界中に受け入れられたが、当然ではあるがPEGは万能ではない。すべてを解決した訳ではなく、むしろ新たな問題を創り出している。
高齢者や認知症患者が適応の多くを占める本邦の医療環境では、とりわけ問題が多い。ターミナル期におけるPEGは、直接人の生と死に関わる。個々の人生に、どのように携わるべきかの一律な正解はない。消化管は使用でき、栄養補充の期間が長期に及ぶ場合のPEGは、静脈栄養や経鼻胃管による栄養より医学的に明らかに優れた方法論ではある。それは疑う余地もない。しかし、PEGへの過度な期待や終わりなき治療は時に不幸を招く。PEG適応の判断は、医学的な問題に加えて社会的、倫理的な側面を加味する必要がある。