とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

高位前方切除術と低位前方切除術の違い

直腸の解剖

直腸は部位によってRs,Ra,Rbに分けられている。

Rs:岬角〜第2仙椎下縁までの範囲。直腸S状部のこと。腸間膜がある領域であるので厳密にはS状結腸に含まれるはずであるが、日本では直腸の一部として扱われている。

Ra:第二仙椎下縁〜腹膜反転部までの範囲(=上部直腸のこと)

Rb:腹膜反転部〜恥骨直腸筋付着部上縁までの範囲(下部直腸のこと)

*なおRa,Rbのa,bはアルファベット順番ではなく腹膜反転部よりもabove(上)なのかbelow(下)なのかという意味である。

どこの領域に癌の原発巣があるかで手術方式が変わってくるので重要。直腸造影や内視鏡検査では第2ヒューストン弁が腹膜反転部の高さとほぼ一致するので、病変部の位置を把握するのに有用である。

*ヒューストン弁とは直腸横ヒダのこと。

直腸がんの手術は原発巣の位置によって肛門の機能を温存できるかで決まる。肛門に近い部位に原発巣があると腫瘍とともに肛門括約筋を切除しなければならないので人工肛門を造設せねばならない。

■直腸がんの術式

直腸がんの手術では病変部位によって腹会陰式直腸切断術、高位前方切除術、低位前方切除術を使い分ける。

  • 腹会陰式直腸切断術とは:

腹部と会陰部の両方から入って(故に腹会陰式)直腸とともに肛門括約筋も切除する術式。人工肛門の造設が必要で患者のQOLを著しく損なうことから前方切除術が不可能な場合に適応となる。

  • 前方切除術とは:

腹部のみから入って腫瘍を摘出する術式であり、S状結腸の断端と肛門側の断端を吻合するので肛門括約筋は温存される。

高位前方切除術とは直腸S状部癌(Rs)に適応となり、吻合線が腹膜反転部よりも上側に置かれるのに対して、一方で低位前方切除術は主に上部直腸がん(Ra)に対して適応となり、吻合線は腹膜反転部よりも下側に置かれる。

まとめると

・高位前方切除術:RsやRaに適応。腹膜反転部より口側で吻合。肛門機能温存。

・低位前方切除術:RaやRbに適応。腹膜反転部より肛門側で吻合。肛門機能温存。

・腹会陰式直腸切断術:Rbに適応。腹膜反転部より肛門側で吻合。人工肛門必要。