とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

胃癌 手術再建方法 よく忘れる項目を解説

はじめに

消化器癌の手術ではその癌を摘出することがゴールではなく、摘出し消化管を再建することまで含まれる。今回は消化器癌の代表疾患である胃癌に関してその再建方法をまとめる。

  • Billroth I法

Billroth I法は、最初の胃切除術で行われた残胃と十二指腸を吻合する再建方法である。日本ではこの再建方法を第一選択とする施設が多い。食物の流れが生理的である点と、術後胆道系にトラブルがあった場合に内視鏡処置としてendoscopic retrograde cholangiopancreatography (ERCP) を施行しやすい点が長所である。一方、縫合不全の危険性と縫合不全を生じた場合に重篤になりやすい点十二指腸液の逆流による食道炎や残胃炎の頻度がやや高い点が短所として挙げられる。
従来は手縫い縫合で吻合が行われていたが、手術機器の進歩により、現在は自動吻合器で器械吻合されることが多い。また、腹腔鏡下手術では、自動縫合器を複数本使用した吻合方法で、デルタ吻合や三角吻合といった手技が開発されている。

  • Billroth II法

Billroth II法は、Billrothにより1885年に報告された残胃空腸吻合による再建方法である。術中診断で切除不能と判断して胃空腸吻合術を施行したが、その後に切除可能と再判断して幽門側胃切除術を行い、その結果生まれた再建方法である。欧米や韓国で広く行われているが、日本ではあまり行われていない。縫合不全の少ない安全な再建方法だが、十二指腸液の逆流が高頻度のため食道炎や残胃炎の発生頻度が高く、また残胃癌の発生頻度が高いことも問題視されている。
十二指腸断端を閉鎖し、Treiz靱帯から10~20cmの空腸を結腸前または結腸後経路で挙上し、残胃と吻合を行う。残胃に対する空腸の流出経路 (輸出脚) の方向により、順蠕動吻合と逆蠕動吻合に分けられるが、どちらも優劣をつけることはできない。なお、特に結腸前経路で空腸を挙上した場合には、輸入脚と輸出脚を吻合するBraun吻合を追加することにより、十二指腸液の胃内流入を軽減することができる。

  • Roux-en-Y法

Roux-en-Y法は、スイスのLausanne大学を主宰していたRouxにより1893年に報告された。吻合が2ヵ所 (残胃空腸吻合と空腸空腸吻合) となり手技がやや煩雑だが、縫合不全が少なく安全な方法であり、十二指腸液の逆流が少ないために残胃炎も少ないことが特徴である。そのため、術前に食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎を認める場合には、Billroth I法ではなく、Roux-en-Y法が推奨される
一方、術後胆道系にトラブルが生じた場合、内視鏡的処置の施行が困難であるため、他のアプローチでの治療が必要となる。Billroth I法とともに日本で普及している再建方法である。
十二指腸断端は閉鎖し、Treiz靱帯から15~20cmの部位で空腸を切離する。空腸を結腸前または結腸後経路で挙上し、残胃空腸吻合を行う。残胃空腸吻合部から30~35cmの部位で空腸空腸吻合を行い、2つの小腸間膜の間隙は閉鎖する。また、近年、挙上空腸と結腸間膜の間隙に小腸がはまり込む、Petersenの内ヘルニアが多数報告されており、同部位も閉鎖することが重要である。

胃癌摘出後には胆嚢結石が増える

胆嚢摘出後には胆嚢結石が増えると言われている。その理由は以下の2つ

・胃癌手術中に迷走神経を切離→胆嚢収縮の低下

・食物の通過が低下→コレシストキニン分泌低下→胆嚢収縮の低下

実際には胃癌切除後749人の解析(日本) 5年間で胆石発生 13% 10年間で22%
British Journal of Surgery 2005; 92:1399–1403

日本や中国の住民健診データでは 一般の胆石保有率3~10%程度 Am J Epidemiol. 1988 Sep;128(3):598-605 World J Gastroenterol 2009 April 21; 15(15):1886-1891

予防的に胆嚢摘出すべきか

メリット

・術直後の急性(無石性)胆嚢炎を回避

・術後慢性期の胆嚢結石症を回避でき

・特にRoux-en-Y吻合後の困難なERCP手技を避けられる

デメリット・リスク

・胃切除胆石の多くは無症状

・EPCPや外科的胆嚢摘出は胃切除後でも可能ではある

・正常臓器の予防的摘出には未知の合併症リスクがあるかもしれない

結果として施設によってはRoux-en-Y再建の胃切除であれば予防的に胆嚢摘出を行うこともある。