とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

ステロイド治療の基本

はじめに

内科医たるもの確実に使いこなせておきたい治療は3つある。それは輸液、抗菌薬そしてステロイドだ。特にステロイドはその作用〜副作用対策まで学ぶことが非常にたくさんあり、今回はステロイドを使う上での最低限ステロイドの作用についてまとめる。

さてステロイドの作用とは大きく分けて3つに分類される。それは抗炎症作用、免疫抑制作用、ステロイドホルモンの補充である。今回はこの3つを解説する。

抗炎症作用

はじめに

炎症とは発赤、熱感、腫脹、疼痛、機能障害である。つまりステロイドはこれら5つを抑える作用を持つ。更に言えばステロイドは最強の抗炎症薬であり、即効性もあるため臨床で頻用されている。

ステロイドの使用は非常に多岐にわたり、過剰な炎症による臓器障害の抑制、膠原病・リウマチ・アレルギー疾患にも抗炎症作用で用いたり、末期ガンなどの悪液質と呼ばれる免疫反応による炎症を抑えるために用いられたりと様々。外用薬としては湿疹でも炎症が続くと皮膚のバリア機能が低下し、炎症が更に惹起されやすくなる悪循環に陥るためステロイドで炎症を抑える。

ステロイド好酸球に最も強く効き、好酸球ステロイドを投与することによって速やかにアポトーシスを起こす。次に強いのはリンパ球で大量に投与するとアポトーシスを誘導する。(だからリンパ腫の治療にも用いられる)それ以外にもリンパ球の増殖、サイトカイン産生を抑える作用がある。

この次が単球・マクロファージである。貪食能・抗原提示能・サイトカイン産生能を抑えることができるが活性化したマクロファージを抑えるには大量のステロイドが必要。

最も苦手なのが好中球である。好中球そのものの作用を抑えることはできず、遊走能を抑えることだけ。

好酸球>リンパ球>単球・マクロファージ>好中球

分類分けとしては作用時間、糖質コルチコイド作用、(non-genomic作用)で分けられる。

・作用時間

 生物学的半減期を元に分類。ヒドロコルチゾンは短時間型、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンは中時間型、デキサメタゾン、ベタメタゾンは長時間型に分類される。

・糖質コルチコイド作用(genomic作用)

糖質コルチコイド作用により抗炎症作用が出現する。ステロイドは細胞質内に存在するステロイド受容体と結合し炎症性サイトカインの発現を抑制することで抗炎症作用効果を発揮する。これはステロイド投与後から数時間後に効果が発現すると言われている。

ステロイド受容体の数には限りがあり、プレドニゾロン1mg/kgでほぼ全てのステロイド受容体がステロイドと結合すると考えられている。したがって成人ではプレドニゾロン1mg/kgを上限に初期容量を設定する。ちなみに小児領域では1〜2を上限とする。

・non-genomic作用

ステロイド受容体が飽和してもさらに高容量のステロイドを投与するとnon-genomicが出現する。Non-genomic作用の作用機序は明らかではない。Non-genomic作用はgenomic作用の上乗せ効果というだけではなく、投与して数分で効果が発現するという特徴を有する。だから「重症で治療を急がなければいけない」という状況でステロイドパルス療法が選択される。Non-genomic作用はデキサメタゾンとメチルプレドニゾロンで強いとされている。

免疫抑制作用

免疫とは非自己を認識して排除する生体内防御機構の一つである。自己―非自己の認識、排除の指示はリンパ球を中心に担われている。ステロイドを高容量で投与するとリンパ球がアポトーシスを起こしたり増殖が抑制されたりして結果的に免疫系が抑制される。免疫系が抑制されることで自己抗原やアレルゲンを異物と認識して排除する働きが弱まり、自己免疫疾患やアレルギー疾患に対しての薬効を発揮する。一方で真菌、ウイルス、細胞内寄生菌を非自己として認識して排除する働きも弱まるため日和見感染のリスクが増大する。

  • 2 免疫抑制作用が出現する時期

ステロイドを投与して数時間以内に出現する抗炎症作用と異なり、免疫抑制作用はすぐには発揮せず、ステロイドを投与して2〜3週間後に出現する。つまり喘息など急性期にPSL 40mgを数日感投与しただけでは日和見感染は出現しない。自己免疫疾患にステロイドを短期間投与しても自己免疫応答は十分に抑制されていない。

免疫抑制効果を得るにはプレドニン換算で20mg/日以上が必要と考えられている。効果は容量依存性でありステロイドパルス療法を併用すると早期(2日以内)により強力な免疫抑制効果が出現すると考えられている。つまりプレドニゾロン換算で20mg/日以上を数週間続けると日和見感染のリスクが上がり、ステロイドパルス療法の併用でよりリスクが増加する。

治療に必要なステロイド投与量の目安

生命が危ぶまれる病態や急速進行性の病態→パルス療法

(中枢神経ループス、ループス腎炎、急速進行性糸球体腎炎、肺胞出血、間質性肺炎の急性増悪)

腫瘍臓器障害を有する病態やステロイドパルスの後療法→ステロイド高療法

間質性肺炎、血管炎、多発性筋炎・皮膚筋炎、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少症)

不可逆的な障害を残す可能性の低い臓器障害を有する病態や免疫より炎症を主に抑えたい病態→中等量

(膜性腎症、器質化肺炎、胸膜炎、IgG4関連疾患、成人Still病・ベーチェット病の発熱、PMR)

  • 1 原発性副腎機能低下症
  • 2 続発性副腎機能低下症

下垂体や視床下部疾患に伴う続発性副腎機能低下症ではACTH分泌低下に伴い糖質コルチコイドが低下するが、鉱質コルチコイドはRAA系によって分泌が維持される。よって補充は糖質コルチコイドのみでよい。

  • 3 医原性副腎機能低下症

視床下部―下垂体―副腎系が正常でもステロイドを投与しているとネガティブフィードバックでACTHの分泌が抑制される。PSL7.5mgまたはデキサメタゾン0.5mg以上を3週間以上投与すると視床下部―下垂体―副腎系が抑制されると考えられている。よってこのような条件に当てはまる場合はステロイドを急に中止してはいけない。また敗血症や手術の際にはストレスに応じてステロイドが分泌されなくなるので補充する必要がある。

妊婦・授乳婦・小児に対するステロイドの注意点

  • 1 妊婦

妊婦には通常プレドニゾロンを投与する。プレドニゾロンは90%胎盤で分解され胎盤移行性は10%程度とされている。ヒドロコルチゾンも胎盤移行性は10%程度であり、妊婦にも使用可能。メチルプレドニゾロンは18〜45%と妊婦には不向き。

プレドニゾロン15mg以上の投与では口蓋裂が増加するという報告があり、15mg未満の投与が望ましい。しかし重篤な疾患や緊急時はこの限りではない。

デキサメタゾンやベタメタゾンの胎盤移行性はそれぞれ100%と30%とされており妊婦への投与という観点では不向きではあるが、胎児にステロイド投与を行うとき(胎児副腎でのコルチゾール合成障害が原因で起こる先天性副腎過形成症、胎児肺の成熟目的、抗SS―A抗体が原因で起こる胎児心ブロックなど)

  • 2 授乳婦

授乳婦にもプレドニゾロンを投与する。母乳にはプレドニゾロンの血清濃度の5〜25%が移行すると考えられている。ただしPSL50mg以上内服している場合は内服後4時間は授乳を避けることを推奨されている文献もある。

  • 3 小児

小児に対するステロイドで問題となるのは成長障害である。視床下部―下垂体―副腎系の抑制と同様に長時間型のステロイドで生じやすく、隔日投与で生じにくいとされている。PSL(0.075~0.125mg/kg)と低用量でも出現する可能性があり、高用量になるほど成長障害が顕著になる。