とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

腹痛・腹部膨満感に対する漢方薬処方

  • 良い適応となる状態

上腹部では胃炎・消化性潰瘍・機能性ディスペプシアなどが適応。下腹部では過敏性腸症候群や瘀血による腹痛、寒冷刺激による腹痛などである。腹部膨満の代表疾患であるイレウスは現代医学的治療に漢方薬を併用すると効果的で、開腹術後も良い適応である。

処方前に押さえておくべきこと

・腹痛の原因は西洋医学的に十分検索しておくことが必要である。急性腹症を見逃さないことが重要。

・寒冷刺激が腹痛を引き起こすことを念頭に置いて診察する。実臨床ではこのタイプの腹痛はしばしば見られる。

・腹部膨満を訴える場合はイレウスの有無、ガス貯留や便秘の有無を確認する。

・ストレスが原因と考えられる腹痛・腹部膨満があることを念頭におく。

第一選択薬が効かない時やそのほかの特徴的な症候を示している場合には?

胃炎・消化性潰瘍

→急激な痛み:芍薬甘草湯の頓用

→痩せ型・冷え症・みぞおちの痛み:安中散

→がっしり型・胃炎・海洋で痛みが強い:黄連湯・黄連解毒湯

→強いストレスが原因している場合:四逆散

→弱いストレスが原因している場合:柴胡桂枝湯

機能性ディスペプシ

→痩せ型:四君子湯、六君子湯(みぞおちの痛みには効果が弱い)

→中間型:半夏瀉心湯

→がっしり型・痛みが強い:黄連解毒湯

心理的要因が強い:香蘇散、半夏厚朴湯

胆石発作

→第一選択:大柴胡湯

→痛みが強い時:芍薬甘草湯を頓用

慢性膵炎

→第一選択:柴胡桂枝湯

→痛みが強い時:芍薬甘草湯を頓用

過敏性腸症候群

→腹満・腹痛:第一選択 桂枝加芍薬

→腹満・便秘:桂枝加芍薬大黄湯

→お腹がゴロゴロする・下痢:半夏瀉心湯

→寒冷刺激で胃痛・下痢:人参湯

→便秘下痢交替型:柴胡桂枝湯、四逆散

→小児の腹満・便秘・下痢:小建中湯

→神経質で几帳面な性格:半夏厚朴湯

抑うつ傾向:香蘇散

瘀血(末梢循環不全)による腹痛

→臍傍の圧痛・痩せ型:当帰芍薬

→臍傍の圧痛・がっしり型:桂枝茯苓丸

→S状結腸の圧痛・便秘:桃核承気湯

寒冷刺激による腹痛

→お腹が冷えて便秘・腹満:大建中湯

→下半身が冷えて腹痛が出現:当帰四逆加呉茱萸生姜湯

→お腹の冷えや下痢を伴う:人参湯

イレウス・腹部膨満

→腸管ガスが多い・腹部の冷え:第一選択肢 大建中湯

→痛みを伴う腹部膨満:大建中湯+桂枝加芍薬

→開腹手術後の麻痺性イレウス:大建中湯

便秘を伴う腹部膨満

→便秘を伴う腹部膨満・がっしり型:大承気湯

→便秘を伴う腹部膨満・中間型:調胃承気湯

臨床所見よりも自覚症状が強い腹部膨満感

→他覚所見は乏しいが訴えは強い:半夏厚朴湯

→他覚所見は乏しく、イライラが強い:抑肝散

→食べるとお腹が張る:平胃散・六君子湯半夏瀉心湯

  • 腹痛・腹部膨満感とは?なぜ起こる?

・急性腹症と呼ばれる手術などの救急処置を必要とする疾患は漢方薬の治療からは除外される。

・上腹部痛には腹部X線検査、上部内視鏡検査、腹部超音波検査などを実施

・胃炎・消化性潰瘍に対してはH2受容体拮抗薬やPPI。補助的に漢方というスタンス

・保存的に治療が可能な癒着性イレウスの場合は通常ドレナージ治療とともに漢方薬の併用は有効であることが多く、軽症の場合は大建中湯などの漢方薬だけでも改善が見られる。