とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

食欲不振に対する漢方薬処方

  • 良い適応となる状態

食欲不振は多くの疾患で見られるが、原疾患が軽快しても消失しない場合や原疾患が不明または治療困難な場合も適応になる。

処方前に押さえておくべきこと

・食欲不振は消化器症状として単独で見られるよりも、多くは胃もたれ、悪心、胸焼け、腹痛などを伴う。

・食欲不振の漢方治療では食欲不振以外の症状を目標にして効果を得ることもしばしば経験される。

第一選択薬

→体力中等度で苦味を気にしない時に半夏瀉心湯

→体力低下し比較的甘味を好む時に六君子湯

第一選択薬が効かない時やそのほかの特徴的な症候を示している場合には?

体力なし

→消化器症状とともに疲労・倦怠感が強い:補中益気湯

→上記に加えて身体の冷え、全身虚弱傾向:十全大補湯

→めまい、頭痛;半夏白朮天麻湯

→身体の冷えと下痢・軟便を伴う:真武湯

→ゲップと精神不安:茯苓飲合半夏厚朴湯

→心下振水音や浮腫:胃苓湯

体力中等度

→心窩部痛と口腔内の苦味:柴胡桂枝湯

→便通異常と精神緊張・精神不安:四逆散

→腹部膨満・気鬱傾向:平胃散

体力あり、熱状を呈する

→赤ら顔、心窩部痛、悪心:黄連解毒湯

→腹部膨満・便秘:調胃承気湯

  • 食欲不振とは?なぜ起こる?

・食欲不振とは食べ物を摂取したいという生理的欲求が減退した状態で空腹感や満腹感とは異なる感覚である。食欲調節中枢の異常で食欲が低下するもの以外に消化器疾患、悪性腫瘍をはじめ多くの疾患で見られる非特異的な症状である。

・急性疾患でも感染性胃腸炎を始め感染症の発熱や疼痛性疾患にはよく見られ症状の軽快とともに食欲も回復するため原疾患に治療が優先される。

・慢性的な食欲不振の訴えがあれば体重の増減に注意し、消化器疾患を始め悪性腫瘍の有無、内分泌疾患や腎疾患など現在医学的治療を優先させるべき疾患の存在について検査が必要。体重減少が著しい場合は特に慎重な検査が求められる。また神経性食欲不振症など精神疾患も念頭におく必要があり、その上で漢方治療の適応を判断する。

・食欲不振は種々の疾患の随伴症状としてみられ、漢方医学的所見は原疾患によって異なる。一般に慢性疾患が悪化すると食欲不振は効率に合併し、虚証として治療が必要になる。

・原疾患がなく以前から胃腸が弱いという場合は脾胃の虚と考える。漢方医学では脾を消化吸収に関与する臓器と捉えている。このことから脾胃の虚とは胃腸の機能低下を意味し、消化吸収能低下や消化管運動異常なども含まれる。これには人参、黄耆などを含む補剤を用いる。

・脾胃の虚が慢性的に続くと水毒が生じるため半夏、茯苓、白朮など水分を調整する生薬も一緒に用いられる。