とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

心原性失神の精査について

はじめに

失神患者はよく循環器内科に「心原性失神の否定をお願いします」と紹介されるが実際循環器内科でどのような検査を行うのかまとめてみた。

完全な否定はできなくても可能な範囲内で疑わしいかどうか調べる。(完全な否定は不可能)

  • ◯まずは病歴の確認

・既往歴:心疾患や失神の有無。心電図異常などこれまでに指摘されていないか。

・家族歴:家族での心疾患や若くして亡くなった人の有無。ブルガダなど

・内服薬:βブロッカーや降圧薬など失神のリスクとなるような薬剤内服はないか。

  • ◯心血管性失神を疑うスコアがある:EGSYSスコア

動悸が先行する失神:4点

心疾患の既往もしくは心電図異常指摘:3点

労作中の失神:3点

仰臥位での失神:2点

増悪因子・環境因子

(疼痛、ストレス、長時間の立位、混雑した場所など):-1点

自律神経系の前駆症状(嘔気・嘔吐):-1点

→合計3点以上であれば心原性の失神の可能性が高い

心原性失神の鑑別として、心筋梗塞、肺血栓塞栓症・大動脈解離、不整脈、弁膜症、心筋症などがある。それぞれの可能性を考えてみる。

・リスクファクターの確認

・胸部症状の有無

・心電図変化

・トロポニン、CK上昇の有無(疑わしければ2時間後再検)

  • ◯肺血栓塞栓症・大動脈解離の評価

・胸痛や背部痛の症状

・原因不明の低酸素血症がないか

・下肢の診察:深部静脈血栓症を疑う所見がないか

・Dダイマー上昇の有無(陰性なら否定可能)

・エコーができれば大動脈フラップやARの評価

・右心系拡大やTRPG上昇あれば肺塞栓疑わしい

→疑わしければ造影CT

  • ◯弁膜症(大動脈弁狭窄症(AS)、など)

・聴診での心雑音の有無

・大動脈弁狭窄症なら駆出製収縮期雑音

・心雑音聴かれれば心エコーで弁膜症の評価

  • ◯心筋症

・閉塞性肥大型心筋症で心拍出量低下し脳虚血による失神(心エコーで評価)

・心筋症が原因による不整脈の出現による失神

12誘導心電図で否定はできない。

初回の心電図で完全房室ブロックなど失神の原因となる心電図以上を拾い上げられる確率は数%に満たないとも言われている。みつかれば確定的だが、『心電図異常がないから不整脈は否定的』とは言えない。

  • 【心原性疑いで緊急入院させるかどうか】

1,心原性の中でも心室細動やtorse de pointesなど致死的なものが疑われる場合

2,心原性失神が疑われて週に1回以上の頻度で認めるもの

3,心原性失神が疑われて頻度は月に1回程度でも外傷をともなっている場合

  • 【緊急入院でなくとも近日中の入院が望ましい場合】

1,心原性の失神が疑われるが、心室性の致死的な不整脈は否定的で、月に1回以上のもの、そして失神による外傷歴のあるもの。

2,心原性の失神が疑われるが心室性の致死的不整脈は否定的で頻度が月に1回以下のもの。

3,心原性の失神は疑われないが、頻度が1週間に1回など多いもの。

上記に該当しない場合であれば外来での検査、フォロー