とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

シックデイについて これだけ

はじめに

糖尿病や副腎機能低下などを並存疾患にもつ患者は珍しくない。特に糖尿病患者は珍しくないが糖尿病治療薬は低血糖の副作用があり、シックデイ教育は非常に重要と言える。今回はシックデイについて解説する。

シックデイとは

糖尿病の治療中に発熱、消化器症状、ストレスなどにより体調を崩したり、食欲不振のため食事ができない時をシックデイ(sick day)という。

このような状態ではそれまで血糖コントロール良好であった患者でも一気に血糖が崩れてしまう。機序としては以下の様なものが考えられている。

・ストレスや感染症、外傷などによってコルチゾルやカテコラミンが過剰に分泌されてインスリンに拮抗して血糖値を上昇させる。

・ストレスで炎症性サイトカインIL1,IL6,TNFαなどの分泌も促進されインスリン抵抗性が増大される。

・消化器症状があれば嘔吐や下痢によって脱水→血液の濃縮による高血糖

脱水によって著しい高血糖になるとインスリン依存性の1型糖尿病患者では糖尿病ケトアシドーシスインスリン非依存性の2型糖尿病では高浸透圧高血糖症候群を起こすので注意が必要。シックデイの予防・治療として重要な事は以下のとおり。 

・脱水予防のために十分な水分摂取(1日1~1.5L)

・食欲がなくても消化の良い物を食べさせて絶食にはしない(絶食にすると体内の脂肪を分解してエネルギー源としようとしてケトン体が産生されてしまうため。食欲なくても食べやすい炭水化物を優先的に摂取させる)

・食事が取れなくてもインスリン注射を中断しない(シックデイにはインスリンの抵抗性が高まっているので同じ量を注射していて低血糖になるリスクは低い。)

シックデイの対策

  • こんなときには、その日のうちに病院へ

著しい高血糖(およそ350mg/dL以上)

250mg/dL以上の高血糖が続いている

尿糖の強陽性が続いている

尿ケトン体強陽性

尿ケトン体陽性が続いている

全血β-ケトン測定値が高値で持続している

39度以上の発熱、または38度ぐらいの熱が長引く

息苦しさが続く

そのほかの強い自覚症状

食事がほとんどとれない

2~3日ようすをみても体調回復の兆しが感じられない

薬の量の加減がわからない

安静・保温・水分糖質の摂取

  • からだを休めて体力を温存しましょう。

急性の病気に対する基本的な対応は、からだを温くしてゆっくり休み、体力を消耗しないようにすることです。 
そうすると病気に対する抵抗力を維持でき、早めの回復が期待できます。

  • こまめに水分を補給しましょう。

熱があるときや下痢をしているときは、とくに水分をとるようにしてください。高齢の方は、喉の渇きを感じにくいことがあります。危険な高血糖高浸透圧症候群の予防のために、喉が渇いていなくても2~3時間おきにお茶やお湯を飲むようにする

  • 消化のよい糖質をとりましょう。

食欲がないときは、無理にいつもどおりの食事療法を守る必要はありませんが、消化のよい糖質(おかゆやおじや、うどんなど)を中心に、なるべくエネルギーを確保してください。食事をとれないことは、ケトーシスになる原因の一つです。ケトーシスになると食欲がさらになくなるので、ますます病気が進んで危険なケトアシドーシスになることがあります。ジュースやスポーツ飲料でもよいので、糖質(糖分)を口にする

高血糖や発熱、下痢などのために体内の水分が奪われて、さらに血糖値が高くなり脱水に拍車がかかり、血液の浸透圧が高くなった状態のことで、ときに昏睡に至ります。高齢の患者さんに起こりやすく、救急治療が必要

インスリンの作用が足りないときや食事がとれないときに起こる危険な状態

糖尿病治療薬の調整

  • ふだん飲み薬を服用している患者さんの場合

インスリンの分泌を刺激する薬は食事の量次第で調節

SU薬や速効型インスリン分泌促進薬は、食事の量にあわせて服用する量を加減します。ほぼふだんどおりに食べられれば薬もふだんの量、半分ぐらいしか食べられなければ薬の量も半分に減らすなどを考慮しましょう。そして、不安な場合は速やかに主治医に相談しましょう。

そのほかの薬は症状を考えて判断

そのほかの血糖降下薬は、ふだんどおりに食事ができれば服用を続けますが、発熱や下痢、吐き気などの症状があって食事を十分とれないようなときは服用を中止して、食べられるようになったら服用を再開します。

食事をとらなくてもインスリン注射は欠かさない

食べない以上はインスリン注射は必要ないと思い込んでいる方がいますが、それは間違いです。インスリンがないと体内で糖分を利用できずに容易にケトーシスになりますし、もともとシックデイには血糖値が高くなりやすいのですから、インスリンを全く注射しないのは大変危険です。

作用時間が短いインスリンを中心に加減する

血糖自己測定の結果を見ながらインスリンの単位数を加減します。 
いつもよりも変化しやすい血糖値に柔軟に対応するために、効果が早く現れて作用時間が短いインスリンでの調節が適しています。

まず、食事の量にあわせてインスリンの量を決めます。 
例)ふだんの半分の食事量→ふだんの半分の単位数

食前の血糖値を見て、上記の単位数に調節を加えます。

80以下 10パーセント減らす
200以上 10パーセント増やす
300以上 20パーセント増やす
400以上 30パーセント増やす