とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

尿は検査について知識の整理

はじめに

神経内科、脳外科、精神科以外の診療科のドクターには馴染みが薄いと思われる脳波検査。しかし痙攣、高齢者のNCSE(非痙攣性てんかん重積)などの診断、検査としては必要となるだろう。今回は脳波検査に関する知識についてまとめる。脳波検査は通常「目を閉じて、何もしないが眠っていない状態」で脳活性の評価を行う。通常は後頭部優位のアルファ波(8−13Hz)があり、基礎波(律動)と呼ばれる。健常成人は8.5Hz以上の基礎律動が認められるが、8Hz以下であれば何かしらの機能障害が疑われる。

◯脳波の電極配置

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引用:http://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/content.php?pid=686338&sid=5708879

脳波電極は国際10-20法に従って配置される。

鼻根と喉頭結節を結ぶ線(前後方向)と両耳朶(じだ)を結ぶ線(左右方向)を10%と20%で区分して電極部位を決定する。

上図の電極位置に記載されたアルファベット、数字の意味は次の通り

  • 【アルファベットの意味】

Fp:frontal pole→前頭極部、F:frontal→前頭部、C:central→中心部、P:parietal→頭頂部、T:temporal→側頭部、O:occipital→後頭部、A:auricular→耳朶

  •  【数字の意味】

奇数→左半球、偶数→右半球、Z→正中部

◯基礎律動とは何か

脳波の中で、一定のリズムで反復している電位変化を基礎律動といい、脳活性を反映する指標となる。

・脳活性化が低下していると、神経細胞興奮が同期化して基礎律動の振幅が高くなり、周波数が減少する(=高振幅徐化)

・脳活性が亢進していると、神経細胞興奮が脱同期化して脳波基礎律動の低振幅化と速波化が起こる。

眼を閉じてリラックスした状態では、周期が10Hz前後になる程度に脳細胞の興奮が同期している。何らかの原因で脳機能が低下していれば、脳細胞はより同期して興奮するため10Hzより脳周波数が減少して(徐波化)、振幅が大きくなる。 

徐波化する原因としては生理的な眠気や意識障害などあるが、いずれにしても脳活動が低下していることを意味する。

◯誘発脳波とは何か

脳波で正確に評価しようと思ったら被験者の状態を統一する必要がある。

脳機能を活性化、あるいは低下させる課題ないしは刺激を行い、それによって脳波がどのように変動するのかを観察する。このことを賦活化脳波(誘発脳波)という。

代表的な方法として以下のものがある。

1,開眼:数秒間の開眼指示

2,過呼吸:1分間につき20回程度の深呼吸

3,間欠的閃光刺激(PS:photic stimulation):短時間の高頻度刺激

4、誘発脳波:睡眠時の脳波

  • ◯周波数ごとによって次のように名前がついている。

デルタ波:0.5-3.0Hz、シータ波:4-7Hz、アルファ波:8-13Hz、ベータ波:14Hz以上

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画像参考:http://logos-classic.id25.com/logos_classic.html

  • ◯基礎律動の評価

・基礎律動で注目するのは3つ:振幅、周波数、位相。

・健常人であれば次の3つが見られる

1:閉眼時周波数がアルファ律動が主成分で周波数が8.5Hz以上

2:アルファ律動の分布が後頭部優位で左右対称(右利きなら右がわずかに優位)

3:刺激に対する反応性:開眼でアルファ波が抑制される

・アルファ律動の振幅は後頭葉で最も大きく、出現頻度も高い(後頭部有意性)。(この後頭部優位性はアルファ律動の主要な発生源が後頭葉であることを意味している)。 

・基礎律動がアルファ波以下(つまり8Hz以下)である場合は、たとえ高齢者であっても何らかの機能障害を疑うべきである。

・アルファ律動は開眼状態で消失する(アルファ減衰orアルファブロック)。開眼による視覚刺激が脳活性を亢進、つまり神経細胞の脱同期を起こしその結果、基礎律動の低振幅速波化が起こり、アルファ減衰を生じさせる。

・律動波における振幅の左右差:一般に、右利きの被験者は、劣位半球である右半球部位で振幅が大きい傾向にある。

・アルファ波は一般的に後頭部有意であるが、前頭部にも出現して後頭部優位性がはっきりしないことがある。その時は一基準電極導出法よりも双極導出法のほうが脳は発生源を明らかにするのに優れている。

・もし、アルファ波の後頭部優位性が消失していたら…その場合を広汎性アルファ律動と呼ぶ。広汎性アルファ律動の定義はアルファ波の広汎性の分布に加え、周波数が8Hz前後に軽度に徐化し、振幅漸増漸減がなく、ほぼ均一な振幅で単調に持続する特徴を有することである。(後頭部優位性の原因は脳の全般性の軽度低下。脳血管障害や抗てんかん薬の長期利用者に出現する。)

・脳波で「脳機能低下」をいつ疑うか。→基礎律動徐化とアルファ減衰などの反応性低下によって判断する。アルファ波の後頭部優位性の欠如のみで脳機能低下とは判断できない。

  • ◯基礎律動の振幅について:小さくても異常ではない

脳波の振幅は個人差が大きく、振幅が小さいからといってただちに異常とはならない。覚醒閉眼時の脳波がすべての記録電極で20μV未満となる脳波を低電位脳波と呼び、健常人の10%に見られる。

  • ◯基礎律動の左右非対称性をどう解釈するか

健常人でも基礎律動はわずかに左右非対称である。右利きの人は左側の基礎律動振幅がやや小さくなる。振幅低下が病的かどうかの判断基準としてはもう片方に比べて50%以下になることである。そして、むしろ振幅の左右差よりも周波数の左右差のほうが重要である。例えば右脳の障害であれば、右側の周波数が徐波化として反映される。

意識清明の基礎律動は10Hz前後のアルファ波であるが、逆に意識混濁状態では基礎律動が低下してシータ波もしくはデルタ波となる。また、刺激に対する反応が乏しくなるため、開眼によるアルファ波減衰の欠如は意識障害を示唆する重要な所見。意識障害が軽度で精神症状が強いと統合失調症と誤診されうるが、脳波上は統合失調症では異常はでない。

おまけ