とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

失神(syncope)の対応について

はじめに

当直をしていると救急車収容依頼で少なからず経験する失神患者。今回は失神について定義や疾患別の頻度、対応方法などについてまとめることとする。

定義

脳の全体的な血流低下による急性発症で、短時間の自然に完全回復する一過性の意識消失。

一過性意識消失(失神)の原因と頻度

・失神(49〜73%)(1神経調節性失神、2心原性失神、3起立性低血圧)

・非失神性一過性意識消失(8〜20%)(神経疾患―けいれん、TIA、偏頭痛、SAH 精神疾患

・不明

高齢になる程心原性失神、起立性低血圧が増加。

まず確認すること

・まずはバイタル測定

・病歴は本人だけでなく目撃者にも

・危険な疾患(不整脈、肺塞栓、大動脈解離、出血、脳血管障害―特にSAH)

・必要なことは病歴、身体所見、心電図、Hct

 

本当に失神と判断していいのか?

  • 意識消失が急性発症、一過性、短時間であるか?→意識が回復しても清明ではない=意識障害
  • 外傷後ではないか?―外傷後なら脳震盪かも
  • けいれんはなかったか?=あれば失神ではなくけいれん

けいれんと失神の鑑別ポイント

・舌咬傷+1

・発作時の既視感・未視感+1

・感情的ストレスが誘因+1

・発作時に頭を側方に向ける+1

・意識消失、異常姿勢、四肢のけいれん、発作の記憶なしのいずれか+1

・発作後に意識障害や混乱、傾眠が続く+1

・失神寸前状態−2

・発作前の発汗−2

・長時間の立位や座位に伴う−2

合計1点以上ならけいれん、0点以下なら失神。

心原性失神

心原性失神は他の失神の原因と比較して死亡率が高く疑えば必ず入院して精査する。

心原性失神の可能性をあげる病歴と検査

・患者背景:65歳以上、心疾患の既往、突然死やQT延長の家族歴

・失神発症状況:仰臥位、ろうさ時

・失神前症状:症状が何もない、ある場合は動悸、呼吸困難、胸痛

・身体所見・検査:心疾患を示唆する身体所見、心電図所見

失神の原因が心原性と診断可能な、もしくは示唆する心電図所見 

肺塞栓症

・危険因子(DVTやその他の血栓症の既往、ピル服用、手術、長時間の不動、悪性腫瘍やネフローゼなどの凝固亢進状態となる疾患の有無)、胸痛、血痰、呼吸困難、低酸素(Wellsスコアをチェック)

起立性低血圧

・起立時の血の気が引く感じに続いて失神している場合は起立性低血圧の可能性が高い

・ベッドサイドで起立試験を行う。(仰臥位と起立後3分までで何度か血圧と脈拍を測定する。)

起立後の収縮期血圧が20以上、拡張期血圧が10以上低下、収縮期血圧が90未満であれば診断的。

立位での脈の30以上の上昇もしくは重度のめまいは出血を必ず否定する。

・原因としては高齢、神経変性疾患、アルコール、糖尿病、脱水、貧血、薬剤、副腎不全など

これでなければ神経調節性失神か?

・感情、恐怖、疼痛、長時間の立位:血管迷走神経反射

・咳嗽、くしゃみ、えんげ、排尿・排便、食後など:状況失神