とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

風邪診療まとめ 微熱+倦怠感編

風邪のような感染症は数多くあります。

今回はその中でも微熱+倦怠感をきたす疾患にフォーカスを絞ってまとめます。

微熱+倦怠感とは感冒症状があるにも関わらず咳嗽、鼻水、咽頭痛などがなく症状のメインが倦怠感である状態。

倦怠感という訴えは医師としては鑑別が数多くあるにも関わらず、臓器特的ではないため診断が難しくついつい風邪という診断をしてしまいがちな領域である。

症例から学ぶ

症例1 19歳男性。特に既往なし。

主訴;発熱、倦怠感

現病歴:10日くらい前から倦怠感あり、37度後半の発熱を認めたため医療機関受診するも風邪と言われて総合感冒薬を処方された。帰宅後も発熱持続し倦怠感が強いため受診。咽頭痛などの気道症状はなく、消化器症状は嘔気のみ。食事のニオイが気になり食欲が出ない。頭痛がある。悪寒戦慄はなし。

身体所見:ぐったりではない。体温37度、その他バイタル異常なし。呼吸数16回

風邪にしては咽頭痛、咳嗽、鼻水の訴えがないので「風邪」とは言いにくい。

血液検査を施行したら肝逸脱酵素上昇が顕著であった。急性肝炎の診断で肝炎ウイルスABC+EBV+CMVを検査するも何も陰性。このような症例ではすでに感冒に対して総合感冒薬を処方されていることがあり薬剤性の可能性も残るが外来ではこのように診断のつかないウイルス性肝炎に意外に出会うことが多い。

症例2 特に既往のない26歳女性。

主訴;発熱、倦怠感

現病歴:1週間前に鼻水、咽頭痛あり。数日で改善したが3日前から37度後半の発熱あり。再び風邪と言われて総合感冒薬を処方され帰宅となった。帰宅後も倦怠感に加えて嘔気を認め初期宇治も取れずに改善しないため点滴をしてもらおうと医療機関受診。特に倦怠感が強くて「今まででこんなに強い倦怠感は初めて」とのこと

メルクマール:こんなにだるい風邪は初めて

→バイタルサインをとったら、収縮期血圧60、心拍数49でショックバイタル。心電図で完全房室ブロック。血液検査ではCK、CK―MBの上昇あり、劇症型心筋炎の診断となりPCPS導入目的にICU入室。

微熱+倦怠感での2つの重要疾患:急性肝炎+急性心筋炎

  • 食事のニオイが鼻に付くような食欲不振、嘔気。
  • 今までに経験したことのない非常に強い倦怠感。

・急性肝炎:風邪にしては38度近い発熱が3日以上続き、局所症状なく下痢もないのに嘔気が続き食欲がない場合は肝機能をチェック。

・急性心筋炎:風邪にしてはえらいだるい。は心筋炎でlow outputによるものかもしれない。完全房室ブロックや心タンポナーデを確認して胸部X線、心電図、心筋逸脱酵素のチェック、心エコーを施行する。

その他の微熱+倦怠感をきたす症例

・無痛性甲状腺炎:スクリーニングはTSHのみで十分。

・リウマチ性多発筋痛症

・巨細胞性動脈炎

・悪性腫瘍:ただし急性の不明熱で過度な悪性腫瘍検索はするべきではない。悪性リンパ腫以外の悪性腫瘍は腫瘍熱をきたすのは原則進行ガンであり、何らかの局所所見を伴っている場合が多い。

結核:咳嗽がないからといって結核は否定できない。

・感染性心内膜炎

おまけ

・臨床的に有意な熱とは?

→午前中では37.3度以上で午後では37.8度以上。

ただし平熱が低い人(普段は35度で36度台でも体がしんどくなる)などの人は不定愁訴のように見えるが寝汗があるかどうかを聞いて、ある場合は有意な発熱と捉えるべきである。