とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

外来風邪診療 診察から処方・帰宅まで まずはここから

医学生時代、多くの医学知識を詰め込み、様々な疾患・治療法を授業の中で学んできたが、いわゆる風邪(上気道炎)だけの授業というものが驚くべきことに、ほぼないのが医学教育の現状である。

世間一般の方からすれば驚くことかもしれない。ただこれが現実である。今回は風邪についてしっかり外来で診察できるよう記事をまとめる。

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そもそも風邪って?

・ほとんどの場合自然治癒するウイルス性上気道感染症のこと。

ちなみに風邪を引き起こすウイルスはサブタイプも含めると200種類以上存在するとされそのほとんどが医療機関で同定できるものではない。つまり、風邪を確定診断することはほぼ不可能と言える。そこで風邪は症状から診断するものとなってしまう。

風邪の症状とは、咳、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、くしゃみ、発熱、倦怠感、目やに、嗄声、関節痛、、、このように風邪の症状というのは多種多様である。これらをよりシンプルにまとめると

・咳嗽・鼻汁・咽頭痛の3症状が急性に同時期に同程度存在する。

風邪を引き起こすウイルスごとの角症状の頻度(%)

ウイルス 咽頭 鼻汁 鼻閉 倦怠感 結膜炎
アデノウイルス 95 80 70   70 60 15
コクサッキーウイルス 65 60 75   35 30 30
RSウイルス 90 65 80 95 20   65
エコーウイルス 60 50 99 90 10 45  
ライノウイルス 55 45 90 90 15 40 10
コロナウイルス 55 50 90 90 15 40 10
パラインフルエンザウイルス 75 50 65 65 30 70 5
全てのウイルス 70 80 95 95     60

ウイルス感染と細菌感染との違いは?

→細菌感染は原則として単一の臓器に1種類の菌の感染を起こす。複数臓器への細菌感染には感染性心内膜炎など特殊な場合以外はあり得ない。(CentorスコアでもA群溶連菌による咽頭炎を疑う場合に「咳がない」が項目の一つになっている)

ウイルスVS細菌

・ウイルス感染:多領域に及ぶ複数臓器の感染症状はウイルス感染の特徴

・細菌感染:細菌感染は原則として単一の臓器に1種類の菌が感染

  • 風邪の3症状のチェック!

・咳・鼻水・咽頭痛の3つを急性に同時期に同程度訴える患者さんは風邪である。

・典型的風邪型:咳=鼻水=咽頭

コラム

・風邪による咽頭痛は原則、嚥下時痛である。咽頭痛であっても食べ物や唾を飲み込むと痛いですか?という質問にNoであれば要注意である。またわからないと言えばその場で唾を飲み込んでもらい痛みが誘発されるかやってもらう必要がある。

・鼻水が出る患者は「たんが出る」と表現する人も多く、後鼻漏による鼻水が喉に落ち込んだものであることが多い、喉に引っかかる痰、痰が絡むなどの訴えがある場合は後鼻漏による鼻水と考えた方が良さそう。

症例から学ぶ

特に既往のない24歳女性。昨日の朝から軽度咽頭痛あり。夕方から37度後半の発熱を認めた。今朝から咽頭痛はやや改善傾向にあるが微熱・鼻水に加えて咳もあるため受診。身体所見では咽頭軽度発赤+、呼吸音、心音異常なし。咽頭後壁リンパ濾胞+、頸部リンパ節触知せず。

解説

「最初に軽度咽頭痛があり、咽頭痛は改善傾向だが、咳嗽、鼻水も出てきた」という経過が風邪の典型といえる。風邪の典型である3症状が同時期にというのは同時にという意味ではなく、24〜48時間くらいの経過で揃うという意味である。外来受診時は3領域の症状が全て出ていることが多く総合感冒薬を処方で帰宅という流れでいいと思われる。しかし全ての症状にそれぞれ対処の処方をするとポリファーマシーになるため、強い症状に対する処方に限るというのが適切ではないだろうか。

処方例

・咳強い場合:麦門冬湯9g分3もしくはデキストロメトルファン15mg3錠分3

・鼻水が強い場合:小青竜湯9g分3もしくはロラタジン10mg1錠分1

咽頭痛が強い場合:桔梗湯7.5g分3もしくはアセトアミノフェン屯用

これらの薬の組みあわせ

(例)夜寝ると咳が強く、咽頭痛・鼻水は軽度

→麦門冬湯9g分3+ロラタジン10mg1錠分1+アセトアミノフェン屯用