とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

胃粘膜保護薬についてはこれだけ PPI、P-CAB、H2ブロッカーなどのまとめ

はじめに

・胃粘膜保護薬の開発は消化性潰瘍の治療とともに進んできた。消化性潰瘍治療の歴史の中で最初に大きなブレイクスルーがあったのはH2受容体拮抗薬(histamine H2-receptor antagonist:H2RA)の開発であった。これにより消化性潰瘍の外科手術の頻度は劇的に減少した。その後酸分泌抑制薬(Proton pump inhibitor:PPI)が開発され現在ではPPIをも上回るカリウムイオン競合型酸分泌抑制薬(Potassium competitive acid blocker:P-CAB)も開発されている。

薬の基礎知識

 PPIは胃酸分泌において役割を担う胃壁細胞に存在するH,K-ATPaseにより細胞外のKと細胞内のHを交換することで胃液内にHを供給することを直接阻害している。一方でP―CABはKの細胞内への取り込みを競合的に阻害することで胃内へのHの供給を阻み酸分泌を抑制している。

PPIは酸性環境下で不安定であること酸分泌抑制作用の立ち上がりが遅いこと、代謝酵素に遺伝子多型が存在し効果に個人差が生じることなどの課題があり、これらを克服しているP―CABはより強力な酸分泌抑制効果を有している。

  • 酸分泌抑制作用は P―CAB>PPI>H2RAということである。

(上4つはPPI、タケキャブはP―CAB)

f:id:gimresi:20200126132555j:plain
f:id:gimresi:20200126132619j:plain
胃粘膜保護薬一覧表

PPIの適応疾患とその期間

よくある勘違い処方

PPIの合併症

PPIが長期に必要な場面

PPIのテーパリング方法

2 GERD治療での考え方

症例 55歳女性。1ヶ月前より断続的な胸焼けと心窩部痛が出現し市販の胃薬を内服するも改善しないために受診した。上部消化管内視鏡検査で逆流性食道炎(GERD)を指摘された。

研修医の疑問:各種あるPPIのうちどの薬剤を選択すべきだろうか?

→治療法としては大きく3つ

Step down therapy:PPI→H2RAへ治療薬を変えていく方法

Step up therapy:H2RA→PPIへ治療薬を変えていく方法

Top down therapy:P―CABを第一選択として処方する治療法

本症例においては、タケキャブ20mg1錠分1 4週間

研修医の陥りやすいピットフォール

GERDと同様の症状が出現する疾患の一つに機能性ディスペプシアが挙げられる。これらはオーバーラップすることもある。こうした症例の鑑別として食道内圧検査や24時間phモニタリングといった機能検査が存在するが一般的に市中病院などでこの検査をするのは現実的でなくタケキャブ処方した上で症状が改善するか見るのが現実的である。

3 薬剤性潰瘍予防での考え方

症例 75歳男性。1年前に急性心筋梗塞のためPCIを施行された。現在は低用量アスピリンにより抗血栓療法を継続され薬剤性潰瘍予防のために酸分泌抑制薬を併用している。

研修医の疑問:薬剤性潰瘍の予防に酸分泌抑制薬はどの程度必要か?

LDAを含む非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory:NSAIDs)はアラキドン酸代謝を司るCOXを阻害するためプロスタグランジンの産生が抑制され粘膜障害が惹起される。

 日本ではLDA投与中におけるい十二指腸潰瘍予防に対してPPIおよびP―CABの半量投与が保険適応となっている。一方でボノプラザンの長期投与が高ガストリン血症を惹起するといった報告に加え、PPIの長期投与による骨粗鬆症や肺炎リスク増加の可能性が指摘されている。このような概念から薬剤性潰瘍予防に対しては適切な量の酸分泌抑制薬に加えてPG製剤を併用するなど多面的な予防が望ましい。

本症例においては、ラベプラゾール(パリエット)5mg1錠分1もしくはミソプロストール(サイトテック)200μg4錠分4毎食後とμ寝る前

研修医の陥りやすいピットフォール

→潰瘍治療の基本が酸分泌抑制であることに異論の余地はない。PPIやP―CABのみで治療する薬剤性潰瘍も存在する。しかしPPIやP―CABのみで治癒しない潰瘍や治癒後に再発を繰り返す症例もあることからそうした症例に漫然と酸分泌抑制薬のみで治療を継続することは長期的に患者のQOLを損ねることになるため防御因子増強薬やPG製剤など酸分泌抑制薬以外の対策を理解することが重要である。

4 ヘリコバクター・ピロリでの考え方

症例 40歳男性。胃がん検診にてピロリ感染を指摘され上部消化管内視鏡でもピロリ感染胃炎と診断されたためピロリ除菌目的に受診した。

研修医の疑問:ヘリコバクター・ピロリ除菌療法における酸分泌抑制薬の選択はどうするのか?

日本において保険適応となっているピロリ感染除菌療法はPPIまたはP―CAB、クラリスロマイシンCAM、アモキシシリンの3剤を持ち用いる1次除菌とCAMの代わりにメトロニダゾールMTZを使用する2次除菌がある。しかしPPIを用いたレジメンの除菌率は70%を下回っており、薬剤耐性菌の増加が影響していると考えられる。

 ピロリ感染を治療する際にはphをアルカリ性にすることが除菌率の向上につながることが知られており、近年登場したP―CABを用いた除菌率の検討が行われており、1次除菌・2次除菌ともに90%に近い除菌率を有することが報告されている。よって現在ではP―CABを用いた除菌が第一に選択されている。

処方例;タケキャブ20mg2錠分2朝夕食後、クラリス200mg2錠分2朝夕食後、サワシリン250mg6錠分2朝夕食後 いずれも7日間

→上記3剤の合剤 ボノサップ1回1シート 1日2回 7日間

研修医の陥りやすいピットフォール

ピロリ感染は除菌が済めば終わりではない。一度感染してしまった胃は感染がなかった胃に比べて胃がん発症リスクは相対的に高いことが知られており、除菌後胃がん内視鏡的に醸出困難である特徴もあり、除菌に成功した後も定期的な内視鏡検査を怠ってはいけない。

おまけ(それぞれのPPIの特徴・豆知識)

NSAIDS胃潰瘍やピロリ菌による胃潰瘍あるいは逆流性食道炎などに対してプロトンプンプインヒビター(PPI)が用いられる。ガイドラインではそれぞれのPPIの効果に違いは無いとされており、どれを使っても問題はないがそれぞれの違いについて簡単にまとめ。

オメプラール®(オメプラゾール)

・最も古いPPI製剤。

・点滴薬あり

・肝代謝

代謝経路にCYP2C19関与、薬物相互作用に注意

タケプロン®(ランソプラゾール)

・タケダ製薬のプロトンプンプインヒビターの略

・点滴薬あり

・肝代謝

代謝経路にCYP2C19関与、薬物相互作用に注意

・collagenous colitis(原因不明の慢性腸管炎症により下痢を主訴とする消化管吸収機能異常を呈する疾患であるmicroscopic colitisの病理学的特徴の1つ)の高リスク薬剤として知られる

パリエット®(ラベプラゾール)

パリエットは壁細胞のH+,K+-ATPaseに作用することで効果を発揮するがので壁細胞(Parietal Cell)からパリエット命名

・他の薬剤と相互作用が少ない

・肝代謝

代謝経路にCYP2C19関与せず、非酵素的に代謝される。他のPPIが効かない時はパリエットに変更すると効果が認められることがある。

・上記の理由により個人差が少ない

ネキシウム®(エソメプラゾール)

・next milleniumの略。次の1000年間使われますようにという意味

・オメプラゾールを元に作られた製剤で光学異性体の片方のみを抽出しており、CYPC19の影響を受けにくい。

・肝代謝

タケキャブ®(ボノプラザン製剤)

カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とタケダ製薬をあわせてタケキャブと命名

タケプロンと異なり胃酸で活性化されなくても効果発現するので即効性が有る。

・効果の発現が早い

・肝代謝

代謝経路にCYP2C19関与、薬物相互作用に注意

まとめ

ガイドラインではそれぞれの効果の差はないとされている。

が、

・内服できない患者には点滴薬のタケプロンもしくはオメプラール

・ワーファリンなど薬を常用薬が沢山有る人であればCYP系の影響を受けにくいパリエット

・内服で即効性を期待するのであればタケキャブ

・最古のPPIオメプラールを使うなら上位互換のネキシウムの方がよい