呼吸器 同効薬の使い分け 総論
ポイント
・鎮咳薬と喀痰調整薬は対症療法であり、咳嗽と喀痰に対する治療の大前提は症状の背景にある疾患に対する治療である
・喀痰は機動分泌が亢進している病態の存在を示唆するため湿性咳嗽の対症療法は喀痰調整薬であり、原則として鎮咳薬を投与しない。
・咳嗽や喀痰をきたす疾患で診断治療が急がれるものとして肺結核とはいがんが代表的であり診断には喀痰検査が有用である。
・COPDにおいては喘息合併がある場合には吸入ステロイド薬を必ず併用する。
・マクロライド系抗菌薬の少量長期療法としてより効果が優れたクラリスロマイシンが通常使用される。投与に際してはMycobacterium avium complex(MAC)症を否定する必要がある。否定できない場合はエリスロマイシンを使用する。
はじめに
呼吸器系の薬剤の中で使いこなせるようになりたい薬として鎮咳薬と喀痰調整薬がある。
しかしこれらは使いこなしているといえど対処療法であり、原疾患の治療を怠ってはいけない。
慢性の呼吸器疾患として気管支喘息とCOPDに対して用いられる吸入薬についても覚えておく必要がある。
1 咳嗽・喀痰の病態生理と診療の基本
咳嗽と喀痰は医療機関を受診する主訴として最も頻度が高い症候である。咳嗽には喀痰を伴う湿性咳嗽と伴わない乾性咳嗽とがある。本来気道分泌は正常な呼吸運動の維持に不可欠であり機動粘膜を乾燥から守る防御機能、病原微生物や異物などの侵入を阻止するバリア機能とクリアランス機能を有している。しかし線毛によるクリアランスを超える気道過分泌が生じた場合には咳嗽により排出する。よって湿性咳嗽は咳嗽クリアランスの役割があり、咳嗽を止めるのではなく過分泌状態を緩和することが大切である。
まずは急を要する病態を病歴聴取や聴診、胸部Xp検査そして喀痰検査などにより除外する。特に肺結核などの呼吸器感染症、肺がんなどの悪性疾患、気管支喘息、COPD(含慢性気管支炎)、気管支拡張症、薬剤性肺障害、心不全、鼻副鼻腔疾患などを鑑別する。積極的に喀痰検査をする。
病歴聴取、身体所見、胸部Xpで簡単に診断がつかない慢性咳嗽には①咳喘息、②アトピー咳嗽・喉頭アレルギー、③GERD、④服鼻腔気管支症候群などがある。
2 COPDにおける吸入ステロイド薬ICSの位置付け
COPDの治療においてICSは増悪抑制効果があると考えられていた。しかし長時間作用型抗コリン薬(Long acting muscarinic antagonint:LAMA)と長時間作用型β2刺激薬(Long-acting beta2-agonist:LABA)の配合薬の方がICSとLABAの配合薬よりも増悪抑制効果に優れる他、呼吸機能改善、呼吸困難改善、QOL改善においても効果が高く、さらに肺炎のリスクが低いことが明らかとなった。またLAMA/LABAにICSを加えた、いわゆるトリプルセラピーを行なっている症例においてICSを中止した際に増悪の頻度が増加しないことが報告された。こうした背景からCOPDガイドラインにおいてICSの投与は喘息COPDオーバーラップ(ACO)に限定されている。
3 少量長期のマクロライド系抗菌薬の使い分け
エリスロマイシンの少量長期投与がびまん性汎細気管支炎(DPB)患者の生存率を劇的に延長させたことからマクロライド系抗菌薬の抗菌活性以外の薬理効果が注目された。効果としては抗菌活性を発揮しない用量において好中球性気道炎症や気道分泌抑制効果、緑膿菌のバイオフィルム形成抑制効果などを示すことが明らかになった。エリスロマイシン以外ではクラリスロマイシンやアジスロマイシンでも同様の有効性が示されている。クラリスロマイシンは好中球性炎症性気道疾患に対する処方が保険適応となっており長期療法として使用できる。具体的にはDPB、気管支拡張症、慢性副鼻腔炎、COPDなどの好中球性気道炎症を有する病態に対して長期管理薬としてクラリスロマイシンが投与されている。COPDの患者においてはクラリスロマイシンは増悪や入院回数の抑制効果を有することが知られており、COPDの長期管理においてはLAMAやLABAによる治療を行なった上で効果が不十分は場合に増悪予防の目的に投与されている。
クラリスロマイシンを投与する上で注意点としてはクラリスロマイシンがキードラッグであるMAC症を否定しておく必要があるところである。MAC症であった場合にはCAM単剤投与となってしまうため薬剤耐性が誘導されてしまうのでもしMACをどうしても否定できない場合はEMを選択する。