とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

降圧薬の使い分けについてまとめてみた

同効薬の使い方 降圧薬について

はじめに

・日本において高血圧有病者数は2010年時点で4300万人と言われている。

・高血圧は脳卒中心筋梗塞といった心血管疾患のリスクであることは明らか。

・まずは運動、食事療法だがそれでも改善ない場合は内服加療が必要。

降圧薬の種類と併用療法について

・一般的には降圧薬はCa拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬の5種類。積極的適応がない場合の高血圧に対しては第一選択薬としてCCB、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬の中から選択する。

・降圧目標値を達成するためには2、3種類の薬剤を併用する場合が多いが異なるクラスの降圧薬を併用した方が同一薬の倍量投与よりも降圧効果が大きいことがメタアナリシスで示されている。

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積極的適応がない場合はβ遮断薬以外の降圧薬から選択(基本的にβ遮断以外なら変わりなし)

β遮断薬以外の薬を3種類併用しても下がりきらない場合にβ遮断薬も使用する。

それぞれの降圧薬の特徴(2014年高血圧ガイドラインを参考に)

CCB

特徴

・Caチャネル阻害により血管平滑筋の弛緩、抹消血管抵抗の減少を起こし降圧

・日本ではジヒドロピリジン(DHP)、ベンゾチアゼピン(非DHP)系が用いられる。DHP系が多くの症例でまず選択される。DHP:ニフェジピン、アムロジピン 非DHP:ジルチアゼム

・DHP系は血管拡張作用が強いため現在用いられている降圧薬で最も降圧効果が強く、臓器血流を保持するため臓器障害合併例や高齢者でも良い適応となる。

・左室肥大の退縮や動脈プラークの進展を遅らせる作用も報告されている。

注意

・副作用:動機、頭痛、ほてり、浮腫、歯肉増生、便秘などある

・禁忌:非DHP系は心抑制作用があるため心不全や高度徐脈例には禁忌。潜在性心疾患を有する高齢者への投与やジギタリス、β遮断薬との併用には十分注意する。

ARB

特徴

・日本ではCCBの次に使用されている。アンジオテンシン受容体に結合して血管収縮、体液貯留、交感神経活性を抑制し降圧作用を発揮する。

・単剤もしくはCCB、利尿薬と併用する。

・心保護作用があり心肥大を抑制、心不全の予後を改善する。

・腎臓では輸出細動脈を拡張して糸球体内圧を低下する他に尿蛋白の減少や糸球体硬化、間質繊維化を抑制して長期的には腎機能の悪化を抑える。

・脳循環調節改善作用や抗動脈硬化作用の他にインスリン感受性改善作用を持つために心、腎、脳の合併症や糖尿病などを有する症例で第1選択薬となる。

注意点

・副作用:容量にかかわらず低頻度

・禁忌:妊婦や授乳婦への禁忌の他に両側性腎動脈狭窄例または片腎で一側性腎動脈狭窄の例で急速な腎機能の低下をきたす可能性があるため原則禁忌。

・慎重投与:重症肝障害患者には慎重投与の他にCKD患者では腎機能の悪化を懸念し、投与中はeGFRや血清Kを慎重にフォローする。

ACE阻害薬

特徴

・血中、組織中のレニン・アンギオテンシン系の抑制とカリクレイン・キニン・プロスタグランジン系の増強も降圧効果に関わると考えられている。

心筋梗塞の虹予防に効果を持つ。心筋梗塞後の心血管合併症を減少させ生命予後を改善する。心筋梗塞の2次予防においてRA系阻害薬の第一選択はACE阻害薬でARBはACE阻害薬に対する忍容性がない場合に処方

注意点

・副作用:ブラジキニンの作用増強による空咳が多い。20〜30%に投与1週間から数カ月以内に出現し中止すると消失する。誤嚥性肺炎には有効

・重要な副作用として稀ではあるが血管神経性浮腫があり、2型糖尿病治療薬のDPP−4阻害薬との併用で増加すると報告がある。起こると呼吸困難により重症化の懸念があるためただちに中止。

利尿薬(サイアザイド系)

特徴

・サイアザイド系、ループ利尿薬、K保持性利尿薬があり心不全の予防効果にも優れる。

・高血圧治療としてまずは減塩治療であるが減塩が困難な高血圧において利尿薬を少量で開始する。

・降圧薬としてはサイアザイド系がよく使用される(eGFR30以上で使用)

注意点

・サイアザイド系は少量から投与を開始すると副作用の発現を抑え、良好な降圧効果が期待できる。

・治療抵抗性高血圧への投与時は電解質代謝などへの影響に注意する。

β遮断薬

特徴

・心拍出量の低下、レニン産生の抑制、中枢での交感神経抑制作用により降圧し、初期には抹消血管抵抗の上昇を起こすが長期的には元に戻る。

・適応は交感神経活性の亢進が認められる若年者の高血圧や労作性狭心症、左室壁運動の低下した心不全心筋梗塞後、頻脈合併例、甲状腺機能亢進症などを含む高心拍出型症例、高レニン性高血圧、大動脈解離など

・内因性交感神経刺激作用を有さないβ遮断薬は心筋梗塞の再発防止や心不全の予後改善効果が期待できる。

注意点

・β遮断薬は単独または利尿薬との併用で糖・脂質代謝に悪影響となることがあるため高齢者や糖尿病、耐糖能異常などの病態の合併があれば第一選択薬ではない。

・禁忌:β遮断薬は気管支喘息、2度以上の房室ブロック、レイノー症状、褐色細胞腫では禁忌。

・慎重投与:慢性閉塞性肺疾患、糖尿病。

・相対的にα1受容体の活性化で冠攣縮を誘発することがあり、冠攣縮性狭心症例ではCCBと併用使用

・突然中止すると離脱症候群として狭心症あるいは高血圧発作が起こることがあるので徐々に減量。

・ベラパミルやジルチアゼムとの併用では徐脈や心不全に注意。

アルドステロン拮抗薬(MRA)

特徴

スピロノラクトンやエプレレノンなどがある。

・低レニン、アルドステロン分泌過多を示す高血圧に特に効果が期待できる。

・アルドステロンの心血管系への障害作用のため臓器保護作用がある。心不全心筋梗塞後の予後を改善するとの報告が多く、高血圧を伴うこれら心疾患に適応である。

・治療抵抗性高血圧への追加薬としてはα遮断薬、β遮断薬と比較してMRAが最も有効であった。

注意点

スピロノラクトンでは男性の女性化乳房、女性では月経痛などの副作用が見られる

α遮断薬

特徴

・交感神経末端の平滑筋側α1受容体の選択的な遮断を起こす。交感神経末端側の抑制系であるα2受容体は阻害せず、特に長時間作用型では頻脈が少ない。

・褐色細胞腫の手術前の血圧コントロール、早朝高血圧に対する寝る前投与などに使われている。起立性低血圧に注意が必要である。

症例

20年来の高血圧に対して内服加療中の70歳男性。現在アムロジピン10mgとアジルサルタン40mgとトリクロルメチアジド1mgを内服中だが家庭血圧は平均160/100mmHg程度とコントロール不良。

→まず初めに家庭血圧についての詳細な評価が必要。正しいタイミングで血圧測定を行うことができているかの確認。朝夕の血圧の比較、さらにはABPM(24時間自由行動下血圧測定)を用いたより正確な血圧の日内変動の評価をすることが望ましい。特に高齢者では血圧変動が大きい傾向があり、普段血圧を測定していないタイミングで低血圧となっている場合があり注意。

次に追加する降圧薬としてはβ遮断薬、α遮断薬、あるいはMRAを考える。2次性高血圧の除外がされていないようであれば、その性差を優先して行う。例えば原発性アルドステロン症を認めるが手術適応とならない場合などにおいてはMRAを投与する。

合併症評価として胸部レントゲン、心電図、必要に応じて心エコー、頸動脈エコー、簡易睡眠モニターなどによる合併症精査も重要である。頻脈を伴う場合はβ遮断薬を焦慮から投与する。

また朝の血圧が明らかに夕方よりも高いようであればまずはCCB、ARBを1日2回に分割投与する。あるいは夕方1回の投与に変更するなどの工夫が必要。

研修医の罠

積極的適応や禁忌に対する検討を十分に行い、患者背景や年齢、ADL、服薬アドヒアランスを考慮した上で使用する薬剤を選択。

終わりに

降圧薬の使い分け、各種降圧薬の特徴をまとめた。ただしあくまで原則を記載しただけであり実際にはここの症例の患者背景、年齢、ADL、服薬アドヒアランスなども考慮した上で最適な治療薬を選択する。

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降圧薬の種類