抗凝固薬の使い分けについて学ぶ
ポイント
・抗凝固薬の適応疾患
・心房細動に対する使い分け
・中等度以上のMSや人工弁置換術後の抗凝固薬はワルファリンを
はじめに
抗凝固薬の適応疾患は大きく分けると心房細動の血栓塞栓症の一次または二次予防、血栓塞栓症(DVT、PE)の一次予防、治療または2次予防、人工弁置換術後の血栓塞栓症の一次予防などがある。
そもそも抗凝固薬と言えば、大きく分けて2種類
・DOAC(Direct oral anticoagiulants)
・ワルファリン:凝固因子のうちⅡ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹの凝固因子の阻害。
DOACは現在使用されているものとしてはダビカトラン(プラザキサ)、リバーキサロン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバン(リクシアナ)の4つ。ダビカトランだけはトロンビン(第Ⅱ因子)の阻害であるがそのほかは第Ⅹa因子阻害である。
抗凝固薬のエビデンス
・ワルファリンは脳梗塞を3分の1に減らし死亡率を4分の1に減らす。
・DOACは心房細動の塞栓予防としても塞栓症の治療としてもワルファリンと比較して同等あるいは優位、出血の副作用としては全般的には同等あるいはそれ以下と言われている。
日本のガイドラインでは僧帽弁狭窄症や人工弁においてはワルファリンを、非弁膜症性心房細動においては血栓リスクに応じてワルファリンまたはDOACによる抗凝固を推奨している。
欧州のガイドラインでは中等度以上のMSがある場合か機械置換術後についてはワルファリンが適応となりそうでなければCHA2DS2―VAScスコアに応じた抗凝固療法を推奨している。特にDOACの適応があればワルファリンではなく積極的にDOACの使用を推奨している。
ここがポイント
日本のガイドラインでは心房細動は弁膜症性(リウマチ性僧帽弁疾患(主に狭窄症)と人工弁(機械弁、生体弁)置換術後)とそれ以外の非弁膜症性心房細動に区別している。一方で欧州のガイドラインでは各国ガイドラインにおける非弁膜症性の定義が多少異なり、弁膜症としつつも僧帽弁狭窄症以外の弁膜症と抗凝固薬の選択についてのエビデンスが乏しいことに言及し非弁膜症性とは表現せずに、具体的な基礎疾患について表記するようにしている。米国のガイドラインでは非弁膜症性を中等度以上の僧帽弁狭窄症または機械弁でない心房細動と表記している。
ESC(欧州心臓病学会)心房細動管理ガイドライン2012では、CHA2DS2-VAScスコア2点以上で経口抗凝固療法が推奨されています。CHA2DS2-VAScスコアは低リスクをより詳細にリスク評価するためのツール。
主な臨床試験まとめ
・プラザキサ(ダビカトラン):RELY
・イグザレルト(リバーロキサバン):ROCKET―AF
・エリキュース(アピキサバン):ARISTOTLE
・リクシアナ(エドキサバン):ENGADE AF―TIMI 48
DOACのメリットとデメリット
メリット
・容量調整が不要
・薬品や食品との相互作用が少ない
デメリット
・ダビカトラン以外には現在使用可能な拮抗薬がない
・腎機能障害患者には使いずらい。高度腎機能障害がある場合や透析患者には使用できない。具体的にはダビカトランはCCr30未満、そのほかは15未満では禁忌となる。
症例から学ぶ
55歳男性。高血圧、糖尿病で通院中。動機を主訴に受信され新規に心房細動が見つかった。
→心房細動の血栓塞栓症の1次予防として抗凝固薬の適応となるだろう。CHADS2スコアでは高血圧、糖尿病で2点で適応。出血リスクはHAS―BLEDスコアで高血圧のみの1点。ちなみにHAS―BLEDスコアの3点以上の場合は半年間の重大な出血リスクは4〜6%と言われている。
処方:イグザレルト15mg1錠分1
80歳男性。高血圧、CCr40のCKD。ADLは部分介助。体重50kg、定期外来で心房細動が見つかった。頸静脈怒張や浮腫などはなく体液貯留所見はなく、心雑音は聴取されない。肝機能、甲状腺機能は正常であった。
→HAS―BLEDスコア3点。CHADS2スコアでは3点でもちろん適応であるが、出血と血栓のリスクを天秤にかけて処方する。(多くは処方するがあくまで症例で判断)
この場合では出血リスクのプロファイルにやや優れているエドキサバン(リクシアナ)の低容量30mg1錠分1を洗濯した
さらに進んで
初発の心房細動、未治療の心房細動を見たときは甲状腺機能をルールアウトするべき。甲状腺機能亢進症で心房細動を発症している可能性があるから。
CHADS2スコア1点であっても年間2.8%の脳梗塞リスクがあることは無視できない。65歳以上、血管疾患の既往、女性をリスクに加えたCHA2DS2―VAScスコアの方が優れている。
ではなぜ日本のガイドラインではCHADS2スコアが推奨されている?
→女性というリスクに関しては65歳未満で他に器質的心疾患を伴わない場合単独では危険因子にならないことが判明している。なので例えば他に既往のない55歳女性の心房細動については一般的には抗凝固薬の適応とならない。