とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

腎機能低下患者に対する薬物投与で気をつけるべき薬剤まとめ

はじめに

多くの薬剤はその副作用に腎機能低下の記載があり、さらには腎機能低下患者に対してはその投与量も調整しなければならない薬剤が数多く存在する。今回はそのような薬剤のうち代表的なものをまとめて、解説していく。

1 鎮痛薬

NSAIDs

COXを阻害することによってPG合成を抑制することで解熱鎮痛作用を有するが、PGの抑制は糸球体の輸入細動脈の収縮を起こし、糸球体血流量の低下へとつながる。よって腎前世急性腎不全を引き起こすほか、尿細管壊死の原因となったり、アレルギーによって急性間質性腎炎を起こす場合もある。したがって脱水、腎機能低下、RAA系阻害薬投与中には腎機能障害を起こすリスクが高くなるため慎重に投与する必要がある。

ちなみにCOX2阻害薬は消化器系への障害は少なくなることが示されているが腎障害は依然としてある。

2 抗菌薬

わずかな例外を除いてほぼ全て腎排泄性であるため腎機能低下患者では抗菌薬の減量が必要となる。

ただし初回投与量は減量しない。一般的に薬剤を半服投与した場合には半減期4〜5倍の時間で定常状態となる。よって初回投与量は通常量を投与し、定常量に早く血中濃度を上げることが大切である。またアミノグリコシド系、バンコマイシン、テイコプラニン、ボリコナゾールなどは治療域が狭いため薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring)を行い血中濃度を維持する必要がある。

また抗ウイルス薬(アシクロビルなど)は糸球体で濾過され遠位尿細管や集合管で高濃度に濃縮されることによって結晶が析出し腎後性急性腎障害を呈することがあるため注意が必要である。また薬剤性てんかん意識障害の原因となるため抗ウイルス薬治療中の患者の意識障害には鑑別が必要。

腎機能低下において用量調整が必要ない抗菌薬

セフェム系 スルバクタム・セフォペラゾン、セフトリアキソン
マクロライド アジスロマイシン
クリンダマイシン系 クリンダマイシン、リンコマイシン
ニューキノロン モキシフロキサシン
グリシルサイクリン系 チゲサイクリン
クロラムフェニコール系 クロラムフェニコール
アミノグリコシド カナマイシン
結核 イソニアジド、エチオナミ、デラマニド、リファンピシン
抗真菌薬 イトラコナゾール、カスポファンギン、ボリコナゾール、ミカファンギン

3 血糖降下薬

・ビグアナイド(メトグルコなど)

腎排泄90〜100%なので腎機能低下eGFR45~60付近で禁忌。乳酸アシドーシスのリスクがあり、ヨード造影剤を用いた検査を行うには48時間前から休薬する。

・スルホニル尿素オイグルコン、ダオニール、アマリール、グリミクトンなど)

腎排泄率の高い活性代謝物の蓄積により慢性腎臓病患者における低血糖をひきおこす可能性がある。この薬はeGFR<30の慢性腎臓病患者には低血糖リスクが高く避けるべきである。

・DPP―4阻害薬(テネリア、トラゼンタ、スイニー、ネシーナ、マリゼブ、オングリザ、ジャヌビア、グラクティブ、エクア、ザファテック)

腎機能低下患者でも多くの場合用量調整で使用可能であるが、ザファテックはCCr<30で禁忌となる。テネリア、トラゼンタは用量調整が不要である。

インスリン

腎近位尿細管で代謝されるため腎機能低下患者ではインスリンの作用が持続する場合がある。長時間作用型は作用が遷延する場合があり注意を要する。ただし急性期や慢性期腎機能障害患者ではインスリン強化療法などが行われる場合もありインスリンの反応性を見て調整が必要である。

f:id:gimresi:20200126134331j:plain
CKDステージ別経口血糖降下薬の適応

4 抗凝固薬

・ワルファリン

重篤な腎機能低下がある場合は出血リスクが高く使用は慎重にする必要があるが現在発売されているDOACはCCr<15であれば全て禁忌となるため、このような場合には出血リスクを十分に説明し慎重に用量調整をし、PT―INRを測定する必要がある。末期腎不全ではCYP2C9阻害のNSAIDsの併用はワルファリンの血中濃度を上昇させ出血のリスクを高める。

・トロンビン阻害薬(ダビカトラン:プラザキサ)

ダビカトランの尿中排泄率は85%と高く腎機能に応じた調整が必要である。Ccr<30では禁忌となる。

Ccr30〜50、特定の併存薬剤(ベラパミルなど)、70歳異常、消化管出血の既往のいずれかの条件がある場合には110mg/回、1日2回を考慮する。またこれらの条件が2つ以上あれば禁忌と考えるべきである。

・Xa阻害薬(エリキュース、イグザレルト、リクシアナ)

各薬剤で減量基準は微妙に異なるが全てeGFR<15では禁忌となる。

f:id:gimresi:20200126134438j:plain
抗凝固薬の特徴まとめ

腎機能障害の原因となる薬剤

薬剤投与により新規の腎機能低下と腎機能悪化を認める腎障害を薬剤性腎障害(drug-induced kidney injury:DKI)と呼ぶ。発症機序は①中毒性腎障害(腎毒性薬剤による用量依存的に発症する腎障害)②アレルギー機序・免疫学的機序(あらゆる薬剤でなるが抗菌薬、H2受容体拮抗薬、PPI、NSAIDsで多く用量依存的)③電解質異常・腎血流低下④結晶形成による尿路閉塞性腎障害がある。薬剤性腎障害をきたす薬剤を以下にまとめた。

f:id:gimresi:20200126134538j:plain
腎障害をきたしがちな薬剤一覧表