とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

便秘薬の使い分けについて

はじめに

 便秘薬には刺激性下剤としてセンノシドを中心としたアントラキノン系薬剤とビサコジルやピコスルファートナトリウムなどのジフェノール系の2種類があり、非刺激性下剤には浸透圧性下剤(酸化マグネシウムラクツロース、ポリエチレングリコール)や分泌型(ルビプロストン、リナクロチド)、胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)などがある

 各種便秘薬の大まかな使い分けとして刺激性下剤は頓用もしくはごく短期間の使用に制限する、非刺激性下剤は毎日内服して投与量の調整をして適切な排便を実現する使い方をすることとなる。通常は酸化マグネシウムなどの非刺激性下剤から開始し効果がないときは随時変更していくが腎機能障害や高マグネシウム血症などあれば他の浸透圧性下剤から始める。

刺激性下剤

センナ、センノシドなどのアントラキノン系下剤は腸管神経節を直接刺激して強力に大腸運動の促進と分泌を行うために高い効果が期待できるが、薬剤耐性や依存性という薬理学的問題があり毎日内服することは避け、あくまでも頓用あるいは短期の使用に限定する。

非刺激性下剤(緩下剤)

これまで日本には酸化マグネシウムしかなかったが近年多くの薬剤が登場している。酸化マグネシウムは多く使われているがエビデンスという面では非常に情報が乏しい。また高マグネシウムによる重篤な副作用があるので腎機能の悪化した患者には使用は避けるべきである。また腎機能が正常な患者にしても定期的に血液検査は行うべきである。

それぞれの緩下剤

ラクツロース(ラグノス)、ポリエチレングリコール(モビコール)の2つは浸透圧性下剤で最近発売された新薬であるが欧米では長期にわたり使用経験があり高い安全性や電解質異常を起こさないことがわかっているため第一選択薬となっている。

・ルビプロストン、リナクロチドの2つも近年発売された新薬であり、作用機序は小腸末端での腸液の分泌を促進して便の軟化、結腸運動を促進させる。リナクロチドは便秘薬としての作用に加え、内臓知覚過敏の抑制作用 によって服痛の改善効果があり、便秘薬以外に過敏性腸症候群の治療薬として保険適応がある。

・エロビキシバットは胆汁酸トランスポーター阻害薬である。基本的には胆汁酸は回腸末端で再吸収されるが大腸に流れると結腸運動の促進と大腸での水分分泌を刺激することがわかってきた。胆汁の再吸収を抑制し大腸内へ流入させることによって下剤効果を生む。効果発現まで非常に短い(内服後5〜6時間で排便を得られるなど)ため患者満足度が高い商品である。

・ナルデメジンは抹消型オピオイド受容体拮抗薬。オピオイドの鎮痛効果を邪魔することなく作用する。オピオイド受容体は中枢(脳)と抹消(大腸)にありオピオイドを投与するといずれにも作用を及ぼすが、抹消(大腸)でのオピオイド受容体を拮抗させることによりオピオイド内服患者の非常に有効な排便薬となる。しかしオピオイド服用が数日間継続した後にナルデメジンを内服開始すると反動で下痢を引き起こすこともあり注意が必要である。

そのほか漢方薬としての下剤と特徴

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

効能・効果:便秘、冷え、生理痛、貧血、色白、更年期障害

特徴:女性、貧血やダイエットで便秘の方。飲んでいる人も多く、広範囲に効く。

大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)

効能・効果:慢性便秘、お腹の張り

特徴:便秘以外特に問題がない人はまずこれ。

麻子仁丸(ましにんがん)

効能・効果:慢性便秘、コロコロの便、ふきでもの、便が硬い、おしっこの量が多い

特徴:便が硬く、コロコロしていたらお試しあれ。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

効能・効果:イライラ、便秘、生理時や産後の不安、のぼせ、生理不順

特徴:イライラが強く、体力がある人向け

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

効能・効果:便秘、ふきでもの、高血圧、肥満、肩こり、むくみ

特徴:ぽっこりお腹、暴飲暴食する人、ダイエットしたい人はおすすめ。

大柴胡湯(だいさいことう)

効能・効果:高血圧、肥満、便秘、みぞおちが苦しい、神経症

特徴:体力があって、脇腹からみぞおちにかけて苦しい人

乙字湯(おつじとう)

効能・効果:便秘、痔、脱肛

特徴;便が硬く、切れ痔、いぼ痔の方はまずこれ。

桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

効能・効果:便秘、下痢の繰り返し、過敏性腸症候群

特徴:便意はあるがトイレに行っても出ない、お腹が痛い、残便感の方

症例

60歳男性。1週間ほど排便がないということで便秘薬を希望して受診した。特記すべき既往歴なし。腹部は平坦、軟 超蠕動音:正常 血圧120/80、血液検査でCr1.6。腹部X線異常なし。酸化マグネシウム内服中。

この症例において最も問題なのは腎機能低下がある上に酸化マグネシウムを処方されている点である。腎機能低下がある患者に漫然と酸化マグネシウムを処方すべきではない。また1週間も排便を認めていないことから糞便塞栓状態にあることが推察されるためこのような場合は腹部画像検査を行ってうえで、外来でグリセリン浣腸を行うなど直腸の糞便塞栓を排泄するか、センノシドなどの刺激性下剤をはじめに使う

・処方例:センノシド12mg1〜2錠寝る前 頓用

研修医が陥りやすいピットフォール

 高齢者や貧血を認める患者では大腸ガンなどの悪性疾患を念頭において精査を進めるべきである。また便秘薬といっても電解質異常は重篤な副作用につながるため外来検査の結果を最大限加味した薬剤の選択を行う。

便秘の背景疾患

・腸管性:イレウス、大腸ガンなど

・弛緩性:糖尿病、甲状腺機能低下、パーキンソン、下剤乱用

・痙縮性:IBS

・直腸性:直腸癌、痔核など

f:id:gimresi:20200126133507j:plain
便秘治療のフローチャート