とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

クロストリジウム・ディフィシルについてこれだけ 疫学から診断・治療まで

はじめに

病棟を管理する診療科であれば遭遇したことはなくても、一度は鑑別にあげたことがあるであろうCD腸炎CDI感染(クロストリジウム・ディフィシル)はいつ疑うか。

教科書的には抗菌薬使用後+入院患者に発生する下痢では疑わなければならないとされている。

今回はクロストリジウム・ディフィシルについて疫学〜診断、検査、治療についてまとめる。

導入・疫学

  • CDIの定義(典型的なpresentation)
     - 24時間以内に3回以上の水様性便
     - 便検査で毒素産生C. difficileまたはトキシン陽性
      or 偽膜性腸炎を示す病理組織または大腸内視鏡所見
  • CDIは、抗菌薬下痢症の20-30%を占め、入院患者の感染性下痢のもっとも多い原因
  • ほとんどのCDI患者は、下痢発症前14日以内に抗菌薬の投与歴がある6,7)
     抗菌薬治療後腸内細菌が再生するのは2〜3ヶ月かかると言われておりその期間はCDIになる可能性はある。逆に言うと10-12週間を超えて発症することは極めて稀
  • CDI発症リスク:抗菌薬使用、高齢、入院期間、PPI、化学療法、IBDなど1, 7. 10)
  • CDI再燃リスク:高齢、抗菌薬併用の必要性、再発歴、腎不全、PPI、初発時の重症度など10)
  • 再発:6-25%7)、最新のガイドラインには25%と記載されているが日本のdataではない1)
     ※NEJMの総説13)では、1回目の再発率は20%、複数回再発している場合の再発率は60%

診断

  • 症状:下痢、下腹部痛、発熱(約15%)、食欲低下、下血や鮮血便は稀
  • 入院患者の説明できない白血球増加をみた場合は、CDIの可能性を考慮する
  • CDI検査の対象:24時間以内に3回以上の新規の下痢を発症した患者
  • 提出する検体は、下痢便である必要がある
     例外は、ileusの場合:この場合はswabが許容される(感度が十分)
  • 検査方法:複数のstepを踏んで行うことが一般的に推奨される
     - 米国での推奨:GDH+CDトキシン→NAAT or NAATのみ
     - 現在の日本での現実的な対応:1.GDH+CDトキシンを測定
      GDH陽性=Clostridium difficileが存在する(トキシン産生の有無は問わない)
      トキシン陽性=「トキシン産生」Clostridium difficileが存在する
      - GDH陰性かつトキシン陰性→CDI除外
      - GDH陽性かつトキシン陽性→CDI確定
      - GDH陽性かつトキシン陰性→2.便培養(CCFA培地)を施行しコロニーでトキシン検査
  • 各検査の感度
     - NAAT:感度は非常に高い、特異度はmoderate(無症候性キャリアでも陽性となる)
     - GDH:感度は高い(85-95%)7)、トキシン産生の有無は評価できない(特異度低い)
     - トキシンA/B:感度75%という報告がある(他の報告では70-80%)、特異度は高い
  • トキシンは室温では2時間でdegradeし、検出されなくなる可能性がある
  • 検査は、同じ下痢episodeにおいて、繰り返しても診断に寄与しない(目安:7日以内)
  • CFはめったに必要とならない(IBDの患者における診断などで有用かもしれない)
  • 再発:いったん改善した症状が治療終了後2-8週間以内に再度悪化したもの
  • 「再発」の診断方法は、初回episodeと同様
  • 小児の下痢の場合
     - 12か月未満:トキシン産生C. difficileの保菌が多いため検査すべきでない
     - 1-2歳:その他の原因が除外されなければ、検査はすべきでない
     - 2歳以上:長期間持続または悪化する下痢で、リスクがある場合検査する

CDIを起こしやすい抗菌薬

リスク比一覧(byホスピタリストのための内科診療フローチャート

クリンダマイシン31.8

セファロスポリン14.9

シプロフロキサシン5.0

ペニシリン系4.3

マクロライド系3.9

レボフロキサシン4.1

ST合剤1.2

テトラサイクリン1.1

 いずれの抗菌薬使用もリスクを上昇させるが、なかでもクリンダマイシンとセフェム系は特にリスクが高い。また抗菌薬の使用以外にもPPIの投与歴や炎症性腸疾患、腎不全の既往などもCDI発症のリスクとして知られている。

CDIの検査

主に使われる検査は2種類→GDHグルタミン酸脱水素酵素トキシンA,Bの検査

GDHはクロストリジウム・ディフィシルの存在を調べる検査(感度85-95%、特異度89-99%)。トキシンA,Bは文字通り毒素産生の有無を調べる検査(感度62-87%、特異度93-99%)

いずれも特異度は高いが感度はそこまで高くない。

GDHとトキシン両方陽性であればCDIと診断、両方陰性であれば否定的。

片方陽性、片方陰性の場合は判定保留となる。

検査で判定保留となってしまった場合、現病歴や他の検査で他疾患が考えられれば原因検索をする。ちなみに培養検査は毒素を産生しない株もあるため診断的な意味はない。大腸内視鏡検査は特異度は100%と高いが、感度は51%と低いためCDIの除外はできない。

CDIの症状は多彩であり、無症状のものから1日20行の激しい下痢まである。また炎症反応上昇も著しく白血球30000超えなど白血病レベルまで上昇するケースもみられる。感染症でここまで上昇するのはCDIと百日咳のみとも言われており、診断のヒントになると考えられる。

治療

  • CDトキシン陽性でも、下痢をしていなければ治療対象とならない
  • 治療(前提:不要な抗菌薬は中止する)
     -non-severe disease
     ・初回:Metronidazole 500mg 1日3回 or VCM 125mg 1日4回 10日間
     ・10日の時点で下痢が治癒していなければ、14日間まで延長を検討
     ・Metronidazoleで5-7日以内に症状改善しなければ、VCMに変更検討
     ・抗菌薬を継続する場合、その終了から+1週間治療を継続する専門家もいる
     ・最新のガイドラインは、VCMまたはfidaxomicinをMetroより強く推奨
     ・実際はmetronidazoleで改善する例が多く、コストも低いためMetroでOK
     ・Metronidazoleの欠点:不可逆的な神経系への蓄積毒性(2回目は使用しない)
     ・治療効果判定にトキシン検査を行わない(治療終了後も50-60%程度で陽性となる)
     -severe disease
     ・初回:VCM 125mg 1日4回 or fidaxomicin
     ・Metronidazoleは使用しない→実際はtryしてもよいと思われる
     -1回目の再発
     ・1回目Metronidazoleで治療した場合:VCM 125mg 1日4回 10日間
     ・1回目VCMで治療した場合:VCM prolonged tapered and pulsed regimen
      VCM 125mg×4/日を2週間、125mg×2.日を1週間、125mg×1/日を1週間
      その後2-3日おきに125mg内服を2-8週間
     -2回目以降の再発
      VCM prolonged tapered and pulsed regimen
      VCM 10日間→rifaximin 20日
      fidaxomicin(VCMより有意に再燃が少ない)
     -それ以降の再発
      fecal microbiota transplantation(成功率81% vs 27%:VCM群)
     -fulminant CDI
     ・VCM 500mg 1日4回+Metronidazole 500mg q8h(div)
     ・ileus:VCM注腸追加(500mg を生食100mlに溶解、1時間程度、1日4回)
     -コスト
     ・Metronidazole 500mg 1日3回 10日間:2130円
     ・VCM 125mg 1日4回 10日間:11131円
     ・VCM 500mg 1日4回 10日間:44520円
     ・Metronidazole 500mg q8h div:3756円/日
     ・fidaxomicin 200mg 1日2回 10日間:未定、承認申請中(アステラス)

 

 

Take home message

  • CDIは、抗菌薬下痢症の20-30%を占め、入院患者の感染性下痢症の原因で最多
  • 抗菌薬使用歴のある入院患者で、1日3回以上の下痢があった場合に、CDI検査する
  • 検査:CDトキシン/GDHを行い、必要時に応じて、便培養(トキシン検査含む)を追加
  • 治療:初回Metronidazole、再発1回目VCM、再発2回目VCM tapered and pulsed regimen
  • 感染対策:接触感染対策(症状改善してから48時間まで)、手洗いは流水と石鹸

クロストリジウムディフィシル感染症診療ガイドライン2022から