とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

発汗・寝汗に対する漢方薬処方

  • 良い適応となる状態

体力低下が顕著で明らかな原疾患がなく、寝汗や発汗のある場合。

高齢者や体力低下した者が急性上気道炎などの急性発熱性感染症に罹患し解熱後に寝汗が続く場合。

処方前に押さえておくべきこと

・発汗異常の原因となる疾患を十分検索しておくことが必要。

・西洋医学的な治療で効果が見られない時や症状が軽微で漢方治療の効果が期待できる時、また原因が不明の場合に漢方治療の適応となる。

第一選択薬: 補中益気湯

第一選択薬が効かない時やそのほかの特徴的な症候を示している場合には?

・体力低下して虚弱な者

感冒の初期:桂枝湯

→小児・腹痛:黄耆建中湯

→貧血傾向・血虚がある:十全大補湯

→不眠・弱い季肋部の抵抗・苦満感・腹部大動脈拍動亢進:柴胡桂枝乾姜湯

・体力中等度〜やや虚弱な者

感冒などの発熱性感染症の中期〜回復期・微熱:小柴胡湯

感冒などの発熱性感染症の亜急性期・微熱・悪寒・腹痛:柴胡桂枝湯

→微熱の続くやや神経質な若年女性・更年期女性でホットフラッシュ:加味逍遙散

→水太りの傾向・腰以下が重い・夏季に多汗が悪化:防已黄耆湯

・その他

→神経過敏・不安感が強い・手足の冷え・手掌・足底の発汗:四逆散

→皮膚疾患(乾燥傾向)・慢性鼻炎・副鼻腔炎・手掌足底が脂汗が多い:荊芥連翹湯

部位 症候
全身 疲れやすい、体がだるい、体重減少、貧血
精神 物忘れ、集中力の低下、不眠、眠りが浅い
頭部 顔色が悪い、抜け毛、白髪、かすみ目、疲れ目、めまい感、口渇、舌が白っぽい
四肢 皮膚の荒れとカサカサ、爪が薄くて割れやすい、筋肉の痙攣、こむら返り、手足のしびれ
その他 動悸、息切れ、過少月経
  • 発汗・寝汗とは?なぜ起こる?

・体温の上昇の対応して発汗:温熱性発汗 視床下部が体温調節中枢となっている。

・このような体温調整とは異なり、情動的変動や精神的緊張によるものは「手掌部発汗反応」(精神性発汗)と呼ばれる。この中枢は大脳辺縁系前頭葉皮質にあり、同部位が脳血管障害や腫瘍により障害を受けると発汗の異常が生じる。

バセドウ病や褐色細胞腫などの内分泌疾患、感染症、特に結核などの微熱が続く疾患、悪性リンパ腫や一部の悪性腫瘍、低血糖、妊娠、自律神経障害、閉経期・更年期障害心不全や慢性呼吸疾患、縦隔腫瘍や大動脈瘤などの胸腔内疾患といった多くの病態で発汗異常が見られる。よって原因検索が重要。

・原因となる疾患の治療を行なっても改善が難しい場合や症状が軽微であり漢方治療が期待できる場合、原因が明らかにならない場合漢方治療の適応となる。

・急性感染症の初期に汗があることは虚証であり、汗がないことは実証であることを示す。つまり急性感染症の初期で汗がある場合や明らかに虚弱であり体力のない場合は虚証であると考えて桂枝湯を使う。

・消化器症状の出現する感染症の中期になると虚実に関係なく往来寒熱と呼ばれる。悪寒と熱感が交互に現れる熱系を示すようになる。この際に解熱とともに発汗がみられるが、この時期に柴胡の入った処方を用いることが多く代表薬が小柴胡湯である。

・寝汗を漢方医学的に考えると寝汗は盗汗ともいう。寝汗=盗汗は虚弱体質者=虚証に認めることの多い症状であると考えられる。

・発汗・寝汗の第一選択薬である補中益気湯やそのほかの黄耆建中湯、十全大補湯、防己黄耆湯などに含まれる黄耆は止汗、強壮の作用があるとされる。また発汗や寝汗に加えて疲れやすい・体力がないなどの虚証の兆候がある場合は黄耆と人参を含んでいる参耆剤を使うことが多く、その代表が補中益気湯十全大補湯である。