ヘパリン化の例 総合内科病棟マニュアルより
・そもそもヘパリン化のエビデンスは乏しい
抗凝固薬や抗血栓薬のいずれにおいても、ヘパリン化によって血栓症を予防できると証明されている試験はないと思われる。
ただし、慣習的に、また減らす可能性はあり、すること自体は個々の症例でも良いと思われる。
ヘパリン置換の手順
「循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2012年度合同研究班報告)」の中の「抜歯や手術時の対応」からヘパリンへの置換について抜粋しますと、
- 大手術の術前3~5日までのワルファリン中止と半減期の短いヘパリンによる術前の抗凝固療法への変更
- 大手術の術前 3~5 日までのワルファリン中止、24 時間~4 日までのダビガトラン中止、24 時間以上のリバーロキサバン中止、24~48 時間のアピキサバン中止とヘパリンによる術前の抗凝固療法への変更
- ヘパリン(1.0~2.5万単位/日程度)を静注もしくは皮下注し、リスクの高い症例では活性化部分トロンボ時間(APTT)が正常対照値の1.5~2.5倍に延長するようにヘパリン投与量を調整する
- 術前4~6時間からヘパリンを中止するか、手術直前に硫酸プロタミンでヘパリンの効果を中和する
- いずれの場合も手術直前にAPTTを確認して手術に臨む
- 術後は可及的速やかにヘパリンを再開する
- 病態が安定したらワルファリン療法を再開し、PT-INRが治療域に入ったらヘパリンを中止する
ただし、いずれもクラス IIa′の推奨となっています。
- IIa′: エビデンスは不十分であるが、手技、治療が有効、有用であることにわが国の専門医の意見が一致している
また、再開についてはワルファリンについての記載しかないなど、ガイドライン上でのヘパリン置換はまだ新規抗凝固薬(DOAC)に対応しきれていない印象もあります。
ヘパリン 1万単位/10ml+生理食塩水40ml 1ml=ヘパリン200U
・80U・kg静注して、18U・kg・hrで持続投与開始
・APTTをヘパリン投与前および6時間ごとに測定する
・未分化ヘパリン投与プロトコル
初期投与:ボーラス 1kgあたり80U静注して 18U/kg/hrで開始
APTT<35秒 80U/kgボーラスして、4U増量
APTT 35~45 40U/kgオーラスして、2U増量
APTT 46~70 変更なし
APTT 71~90 2U/kg/hr減量
APTT >90 1時間中止し3U/kg/hr減量して再開
ヘパリン置換は不要とする意見
近年、BRIDGE試験の結果などからヘパリン置換が不要との意見も増えてきています。ですが、まだまだエビデンスレベルが高いものが揃ったとは言えない状況でもあります。 BRIDGE試験は心房細動患者のワーファリンからのダルテパリンブリッジの試験です。患者は心房細動に限られ、薬剤も日本で一般的に使われるヘパリンではなくダルテパリンを使用していますので注意が必要です。そのような内容も吟味したうえでヘパリン置換を考えていく必要がありそうです。
抗血小板療法について
近年、冠動脈、頸動脈、下肢動脈の狭窄に対するインターベンション治療が盛んになっており、血栓閉塞の予防のため、抗血小板療法は必須となっております。心、脳血管障害発生後、アスピリンを中心とした抗血小板療法により、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞と血管障害死亡の発生を約25%減することができます。アスピリンの服薬中止は、継続投与に比べて脳梗塞発症リスクが3倍高くなる報告もあります。
また、冠動脈における薬剤溶出型ステント(DES)の出現により、ステント再狭窄は従来型のステント(BMS)に比べ、格段になくなりました。しかし、薬剤溶出型ステント部は内皮の被覆が遅延しており、遅発性ステント血栓症の発症がBMSに比べ、多くなります。冠動脈ステント留置後の抗血小薬は2剤併用(DAPT)(アスピリン+チエノピリジン製剤)が基本であり、アスピリンは無期限の投与が勧められています。DESを留置した患者では、DAPTが12か月(最短3か月)必要ですが、BMSでは最短で1か月必要です。
非心臓手術前のPCIにおけるガイドラインにて、術中、術後の出血の危険性が高い待機手術は、DES留置後は12か月、BMS留置後は最低でも1か月は延期することが望ましいとなります。DES留置症例がチエノピリジン製剤を中止しなくてはならない場合でも、アスピリンは継続すべきであり、術後、可及的早期にチエノピリジン製剤を再開しなくてはなりません。やむなく抗血小板薬を中止せざるを得ない場合は、ヘパリン投与しますが、ステント血栓症を予防するエビデンスはありません
抜歯や手術時の対応(文献2)
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