とある総合診療医のノート

地方病院勤務総合診療医の日々の勉強・学びのアウトプット

Vital talk 救急現場のACP

目標

・SPIKES、NURSE、REMAPを知る

・救急現場で利用できるようになる

 

なぜ goals-of-care discussions が重要か

• 患者の終末期の希望が共有され、尊重される事につながる BMJ. 2010;340:c1345.

• 終末期の積極的な(人工呼吸器や心肺蘇生など)医学的介入を減らし 終末期ケアの質の上昇につながる

JAMA. 2008;300(14):1665-1673. / JAMA. 2016;19;315(3):284-92.

• 終末期の延命処置の費用を削減でき、死の質の改善につながる Arch Intern Med. 2009 ;169(5):480-8.

 

 

SPIKES

 

SPIKESはSetting、Perception、Invitation、Knowledge、Empathy、Strategy & Summaryの頭文字。これに則って患者へ説明、治療方針の決定を行なっていくフレームワーク

 

S:Setting-適切な面談環境を設定する

プライバシーに配慮した、安心して落ち着ける環境を準備する。できれば看護師さんも同席するのが望ましい。

「患者待合室で、人が行き来するなら、場所を移動して、座ってもらって同じ目線で話し始める。」

 

P:Perception-患者の認識を知る

患者が、自分の状態、これからのことをどのように考えているか、どのくらいまで理解しているかを聴取する。間違った認識であっても一旦聞くことにする。

「紹介患者であれば、紹介元の先生にはなんと言われましたか?

 救急車で来院であれば、施設であれば、施設からなんと聞いていますか?自宅からなら自宅で何が起こったのですか?」

 

I:Invitation-説明の前に許可を導入、許可を取る。

「病状を説明させていただいてよろしいですか。」

 

K:Knowledge-診療情報を伝える

エビデンスに基づいた情報を、絵やわかりやすい資料などをうまく利用しながら提供する。

「病状を平易な言葉で説明する。正確さも重要であるが、理解を優先する」

 

E:Empathy-共感を示す

悪い情報を提供したら、患者さんがどんな気持ちになっているかに共感しながら、一方で客観的に、患者さんの様子を観察、評価する。

「驚かれたでしょうね」「こんなことあなたに言うのは私も辛いですよ」「あなたのそんな気持ち、私もわかりますよ」などと共感をする。「どうしてそのように思うのか、もう少し話をしてくれますか?」など具体的な気持ちを探索する質問も、共感を深めるのに役立つ。また、沈黙には沈黙で。患者さんが話し始めるのを待つことも大切である。

 

S:Strategy & Summary-方針を提示する。

最後に話したことをまとめる。そしてこれからどうするかを提示する。現実の中で、できる最善のことを一緒に考えていく姿勢を見せる。

 

感情に対応するスキル

NURSE

じゃあなぜ感情に共感するスキルが必要なのか?

→反応する感情は時に認知・理解の妨げになる

感情の波が出た場合、感情的になった場合、NURSE時に沈黙も効果的。

 

REMAP

深刻な病気・病状を話し合う際のフレームワークとしてREMAPと言うツールがある。

 

goals-of-care discussions の framework として

REMAP推奨

 

–  Reframe 状況の変化の説明

–  Expect emotion 感情への対応

–  Map out patient goals 重要な価値観の掘り下げ

–  Align with goals 患者の価値観に基づいた治療の方向性を確認

–  Propose a plan 具体的な治療計画
J Oncol Pract. 2017 Oct;13(10):e844-e850.

 

家族が積極的治療を望み続ける場合

ーtime-limited trial を活用する。 Back AL. JAMA, 293 (11) : 1374-81, 2005

                Chang DW. JAMA Intern Med, 181(6):786-94, 2021.

患者・家族と医療者間の対立でよくあるのは、医療者側が患者は明らかに終末期に近づいていると判断していても、家族が積極的な治療を希望し続けるケースである。このようなケースはtime-limited trial が有効なことがある。

time-limited trialとは予後が不透明かつ治療目標が確定しきれない重症患者において、期限を定めて積極的治療の効果を測る方法である。

家族が要求する治療が患者の状態に近畿ではなく、治療呼応かの有効性が不確かなとき、そしてその治療が患者の治療目的や価値観に沿っている場合は、できる限り患者に関与している全ての人と話し合った上で、医療者間で確認し、計画をカルテに記録してから、time-limited trialを行う。

・time-limited trialの目的と治療期間

・経過観察中に注目する症状や検査結果(何をもって状態が良くなっている、悪くなっていると判断するか)

・time-limited trialの成功・不成功の判断基準(患者や家族側からの意見も確認する)

 

できることは全てしてくださいに対応する

「全て」とは何なのか?

「可能な医療全て」と捉えるのではなく、その背景にある真意に注目する。

というのもどのような苦痛を伴う治療でも「全て」をリクエストしてくる人は比較的稀である。治療を控えるということは見捨てているということに思われてしまう。

「全て」とおっしゃいましたが、どういう意味なのかもう少し詳しく教えていただけますか?

例えば、「心配していることはなんですか?」「大事なことはなんですか?」「治療によってどのようになることを望んでいますか?」「ご自身の病状についてどのように聞いていますか?→理解できていないなら、補足説明を行う

患者や家族の感情や価値観を探って、それに基づいた治療方針をREMAPに下いて提案して反応を伺う。

それでも全てを希望するならtime-limited trialを提案してみる。

それでも全てなら文字通り「全て」を行う。

その場合は、説明内容となぜそのような治療方針を選択しているかを多職種で共有することと、文字通り「可能な医療行為を全て行い、1秒でも生物学的な生命を長く保つことが大事」スタッフの心理的負担に配慮する。(余計に説得を試みることはせず、無益と思われる治療に対する葛藤を抱く医療スタッフのメンタルケアにも配慮)

 

医療用語解説

withhold:治療差し控え

「これからは苦痛などの症状があるときは、症状緩和のための薬やケアを積極的に行います。ただし、これ以上お体に負担をかけるような治療を新たに行なったり、増やしていくことはしないようにします。人工呼吸器の設定や、今使っている薬の量は下げることができれば、下げますが、これ以上上げることはしません。心停止となった時も、心肺蘇生はお体を痛めつけることになるので行いません。」

 

withdraw:治療中止

「これからは辛い症状を取るための治療だけを行います。自然な形で最後を迎えられるように苦痛をとるためのお薬を継続し、必要に応じて増やしていき、苦痛がないようにします。今使用している血圧を上げる薬や抗菌薬や人工栄養は全て終了します。心停止となったとき、心肺蘇生はお体を痛めるけるため行いません。今までの治療をやめた場合、その後どれくらい頑張られるかは正直わかりません。比較的短い時間で、数時間の方もいれば、数日とながらえる方もおります。いずれにせよ最後の時間が車で、症状に気を配り、サポートさせていただきます」

 

withdraw:治療中止(抜管を含めて)

抜管を行う場合は、患者・家族の意思確認の後、部署内多職種カンファレンスでの合意形成および病院の臨床倫理委員会の承認を経た上で行われます。抜管に先立ち、抜管後の症状緩和や家族のグリーフケアを十分行えるように備えたあと、患者の最後に立ち会いたい家族・親族・友人などと日程調整の上で、日時を決めて行う。

「ご家族の最後は自然な形でというご意向に沿うために、今使用している血圧を上げる薬や抗菌薬、点滴や人工栄養は終了して、苦痛を取るためのお薬だけを使用します。喉から管は抜き、人工呼吸器を終了します。呼吸困難などの症状があるようであれば、モルヒネを使用し、症状が無くなるまで増やしていきます。喉の管を抜くと喘ぐような呼吸になったり、唾液などの分泌物で喉がゴロゴロしたりすることがありますが、それは最後までご自身の力で呼吸しようとする自然な姿です。人工呼吸器をやめた場合、その後、どのくらい頑張ることができるかは、わかりませんが、短ければ、数分〜数時間、または何日とながらえる方もいらっしゃいます。いずれにしても、最後の時間が来るまで、症状に気を配り、サポートさせていただきます。」